現代において、パロディ目的の著作物の利用を著作権法上許容するかは、文化的・経済的戦略として、従来の議論の枠を越えた新しい問題として認識されつつある。本研究は、裁判例や学説等のほか、表出しにくい我が国でのパロディ創作の現状を把握しつつ、更に欧米諸国の議論をも参照した上で、パロディ許容の現代的な趣旨を明らかにし、我が国での議論の基礎を提供することを目的とするものである。 今年度は、昨年度に続き、米国法及び欧州法における検討を進めた。欧州法においては、情報社会指令におけるparodyの意味について判断した2014年のDeckmyn判決に係る検討が進みつつあり、判決の下された当初は肯定的な評価も見受けられたものの、一方で近時はparodyの定義を狭くしすぎたのではないか、といった指摘も見受けられるようになってきた。情報社会指令における権利制限は限定列挙の方式を採用しているとされている。それからすると、parodyの定義を限定してしまうと、その権利制限規定でカバーできるものも限られてしまうことになり、定義されたparodyに近いがその定義に含まれない周縁のものを保護することができなくなってしまうとの問題意識も示唆されている。 これらのことは、立法形式として、米国法におけるfair useの運用と対比して、parodyを積極的に定義することが適切なのかどうかといった問題を提起するほか、(parodyの辞書的な意味に囚われすぎず)そもそもどういった目的で何を保護するためのものだったのかといった、趣旨に立ち返った検討が要請されているようにも見受けられる。 次年度に向けては、上記のような視点を加味したうえで、我が国における検討の視座を引き続き模索する予定である。
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