本年度の研究実績としては以下の2点がある。
1点目として、被験者間デザインで行ってきたRCT行動実験については、改定を重ねた上でJournal of the Economic Science Association誌に出版することができた。pro-drop言語である日本語を用いた実験によって、これまでの社会言語学で有力であったカシマカシマ仮説と異なり、第一主語(私)を強調することでより利他的になることが示された。本研究は統制された実験環境の下で因果関係を識別することの重要性を示唆しつつ、社会効用の性質について重要な含意を提供した。また、関連した社会効用の実証分析についても、Journal of Economic Behavior and Organization誌とJapanese Economic Review誌に出版することができた。
2点目として、社会効用の研究を各所で報告する中で得たフィードバックに基づき、新しい行動実験を行った。社会効用をという研究テーマにあって、その起源についての重要な論争があり、それはいまだに解決されていない。具体的には、社会効用が自分自身の知覚、すなわちself-esteemと、他者から生まれるイメージ、すなわちsocial imageの2つの効果のうち、どちらがより重要なのかという疑問についての論争である。この未解決問題にあたっては自分が開発、実践してきた離散選択実験による解決が可能であることを着想し、これに取り組んだ。文化の差が社会効用の発現に差を与える可能性を考慮し、アメリカ、イギリス、南アフリカ、オーストラリア、シンガポールという異なる社会背景をもった5ヶ国で予備的な実験を行った。この予備的な実験の結果に基づき、新しい研究プロジェクトで本調査を推進していく計画である。
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