昨年度作成したディスカッション・ペーパーをもとにして学会やセミナーなどでの報告を行った。得られた内容を元にして分析の追加とそれにともなう論文の改定を行い、現在査読付き雑誌への投稿を行っている。 研究内容としては昨年に引き続き上場基準前後でのイノベーション変数の推移を確認している。特に学会やセミナーにおいては共変量の求め方についての指摘が複数なされたので、その点について複数の観点から確認をした。 分析結果は昨年度得られたものと概ね同様であり、上場基準緩和がイノベーション活動に負の影響を与える、あるいは無関係であるとの結果が得られた。ただし結果はイノベーションの変数によってばらつきが存在することが確認された。ただし少なくとも上場基準緩和が正の影響を与えたとの結果は得られなかった。これは先行研究とも補完的である。 これら結果から新規株式公開時における質を保証する主体として、誰がスクリーニングをするかが非常に重要であることが理解できる。スクリーニングにより質の保証をするエージェントとしては証券会社やベンチャーキャピタルなどを挙げる研究もある。しかしそれらは新規株式公開から利益を得る。具体的には証券会社は引受業務から手数料を、ベンチャーキャピタルは高い価格でのExitを求める。このことを鑑みると利益相反の少ない主体として、証券取引所が質に関する精査をすることは合理的である。 なお昨年度の時点で予定していた国際学会での報告は、国外大学でのセミナー報告として予定していたが、新型ウィルスの影響によりキャンセルとなった。
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