本年度は、昨年度からの世界各国の上場企業の参入国のデータベースを作成し、撤退経験が参入に与える影響について分析を進めた。データベースの作成については想定以上の時間を要したものの、過去10年について、各上場企業の海外子会社のデータから参入国と撤退国の特定ができ、また撤退の規模などの特性についても特定が可能となった。 予備的分析の結果であるが、撤退の経験は、その後の参入の可能性に影響を与えることが示唆されたが、その影響は撤退の規模の大きさに依存することが示唆された。また、本国、撤退国、参入国の関係性についても、それぞれの国の制度的類似性が影響を与えうることが分析結果より示唆された。また、撤退の経験は、その後の参入形態の選択にも影響を与えることが予備的な分析結果より垣間見られた。上記のように、撤退の経験は、「失敗」とみなされ、同じような失敗を犯したくないという心理的なブレーキが働くことで、その後の参入に影響を与えうることが予備的な分析から見出された。 同じく、これらの失敗の経験について、どのような要因が「あえて犯した失敗の恐怖を乗り越えて、もう一度チャレンジする」というような新たな参入をもたらすのか、という要因について追加的に分析を行った。経営陣の交代については、失敗後の参入に対する負の影響を弱める可能性があることが見出された。これは、前任者が有する失敗の恐怖から免れ、そこからの学習の経験だけが生かされているためであるかもしれない。
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