研究課題
高齢者の感情制御過程について,記憶の観点からの検討を行った。従来の研究では,加齢に伴い感情制御メカニズムの機能が低下することが指摘されている。しかし,加齢に伴い不快刺激を忘却し,快刺激を記憶するようになるというポジティビティ効果も指摘されてきた。ポジティビティ効果は一見すると高齢者の感情制御機能の高さを示しているように思われる。だたし,先行研究は,実験室で短期的な記憶(記銘後10分から数日)を対象に行ったものばかりで,こうした実験室における短期的なポジティビティ効果が日常生活で経験する幸福感に関連している保証はない。またポジティビティ効果の長期的な影響も不明である。本年度はこれらの点について検討するため,主に2つの研究を行った。まず, functional MRIと日記法を組み合わせた実験プロジェクトを行った。被験者にはまずMRI装置の中で,不快刺激,快刺激,中性刺激を見てもらい,それぞれの刺激に対して,屋内か屋外かの判断をしてもらった。その後1週間の日記法での質問紙測定を実施し,1週間後に認知課題ならびにMRI装置の中で提示した刺激の記憶テストを実施した。この記憶テストのパフォーマンスと日記法で測定された気分の関連を検討することで,記憶のポジティビティ効果と日常での幸福感の関連を検討すること,更にそれぞれが独立な脳内基盤を持つか否かを明らかにすることを目指した。第二に,ポジティビティ効果が実験室を超え,日常経験に対する記憶においても確認されるどうかを検討するため,1000人あまりの大規模調査を実施し,感情的な事象に対する記憶を1年にわたって縦断的に検討することで,ポジティビティ効果の長期的な影響を明らかにすることを目指した。国内,国際的な共同研究を行い,加齢に伴う脳内機序の変化に関して,ニューラルネットワークモデルを提案し,その応用研究を行った。
2: おおむね順調に進展している
MRIと日記法を組み合わせた研究では,25名ほどの高齢者のデータを収集した。この数字は当初目指していた数値よりも若干少ない。その原因として,多くの高齢者が何らかの身体的疾患を抱えており,手術や治療,服薬の履歴に関して,個別の被験者についての診断書をもとにMRIの安全委員会と病院との調整が必要なことがあげられる。MRI実験を補完する形で,大規模調査を実施したが,こちらについては予定通りにデータの収集と量的データの解析が終了している。
MRIと日記法を組み合わせた研究については,地域の病院とはきわめて良好な関係を気づいており,引き続きMRI安全委員会と病院との調整を続け,できるだけ多くの被験者のデータを得られるよう引き続きデータの収集を継続する予定である。また,大規模縦断調査については,質的データを現在コーディング中であり,解析が済み次第論文執筆に移行する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件)
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