研究課題
当該年度はまず,高齢者の感情制御過程について,記憶課題,恐怖条件づけ,認知課題といった多様な指標を使用し主に行動指標と生理指標による検討を行った。従来の研究では,加齢に伴い不快刺激を忘却し,快刺激を記憶するようになったり,主観的幸福感が高まったりするというポジティビティ効果が指摘されてきた。ただし,こうしたポジティビティ効果は,65歳程度を上限として,後期高齢者になると減衰するとの知見も報告され,加齢が感情刺激の処理に与える影響は複雑な様相を呈していた。また,ポジティビティ効果の背後のメカニズムについても,加齢が扁桃体の機能に与える影響を指摘する研究者もいれば,認知機能の影響を指摘する研究者もおり,十分に理解されているとは言い難い。そこで,本年度は扁桃体機能に関わる恐怖条件づけ,認知機能などを幅広く測定し,記憶のポジティビティ効果のメカニズムを検討した。その結果,記憶のポジティビティ効果は,後期高齢者になっても一定の割合で増えていくことが示された。更に,こうしたポジティビティ効果は,認知機能の影響を強く受けており,加齢によって認知機能が低下した人はポジティビティ効果を示しにくいことが示された。先行研究で後期高齢者になるとポジティビティ効果が減少すると言われていたが,こうした結果は,加齢による認知機能の低下による副次的な産物だったと考えられる。第二に,感情が記憶に与える影響に関するコンピュータモデルを提案し,それを高齢者にも展開した。第三に,昨年度から継続中の加齢と感情記憶と幸福感に関する大規模縦断調査については,質的データをコーディングを終え,量的解析を行った。
2: おおむね順調に進展している
恐怖条件づけや記憶課題,認知課題を使った研究はデータの収集と論文化を終え,査読結果を待っているところである。コンピュータモデルに関する研究も,論文が出版された。大規模縦断調査についても質的データのコーディングを終え,統計解析に移行している。
実験室実験のデータだけでは高齢者の日常生活における幸福感は分からない。また脳データなしでは,扁桃体の機能がポジティビティ効果にどのように関与しているのかも分からない。最終年度は,脳画像指標とMRIと日記法を組み合わせた研究によって加齢の影響を複合的に理解することを目指す。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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