研究実績の概要 |
加齢と精神的健康の関連に関しては,若年成人に比べて,高齢者ほど肯定的な情報を優先的に記憶し,高い主観的幸福感を示すことが指摘されてきた。こうした現象は,加齢に伴うポジティビティ効果と呼ばれている。ただし,先行研究では,感情制御が困難になると予想される老年後期はほとんど検討されてこなかった。そこで本研究では,「高齢者が老年期に渡っていかに精神的健康を維持するか」を解明することを目指した。本研究期間では,まず実験室実験を行い,実行系機能の有無によって,加齢がポジティビティ効果に異なる影響を与えることを明らかにした (Sakaki et al., 2019)。次に,高齢者の主観的幸福感に関する縦断調査を行い,実験室実験と同様,実行系機能の有無によって,加齢が主観的幸福感に異なる影響を与えることを明らかとした。より具体的には,実行系機能の低い場合には,加齢に伴う幸福感の上昇は70歳前後がピークで,老年後期になると幸福感が減少することが示された。一方,実行系機能が高い高齢者においては,老年後期においても加齢に伴う幸福感の上昇が認められた (Yagi et al., under review)。更に,経験サンプリング法と脳イメージングを併用して,高齢者における主観的幸福感と記憶におけるポジティビティ効果の心理・神経基盤に関する検討を行った (Raw et al., in prep)。加えて,加齢の脳基盤への影響を包括的に検討するための新たな指標の検討を行うと共に(Ezaki et al., 2018, 2020; Masuda et al., 2018),基礎実験により高齢者の感情処理基盤の検討を行った (e.g., Sakaki et al., 2019)。
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