研究課題/領域番号 |
16H05962
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
加藤 雄一郎 国立研究開発法人理化学研究所, 加藤ナノ量子フォトニクス研究室, 主任研究員 (60451788)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | ナノチューブ・グラフェン / 光物性 / ナノ構造物性 / ナノ物性制御 / ナノマイクロ物理 |
研究実績の概要 |
2016年度は主としてゲート誘起キャリアを利用した励起子生成に取り組んだ。また、平行してバンドギャップ収縮のゲート制御にも着手した。 ゲート誘起キャリアを利用した励起子生成では、分割ゲート式ダイオード構造に架橋カーボンナノチューブを組み込んだデバイスにおける電界発光のデータ収集および解析を進めた。シリコン・オン・インシュレーター基板のトップシリコン層を熱酸化することにより分割ゲートとした架橋カーボンナノチューブトランジスターにおいて、分割ゲートに正負の電圧を加えてp領域とn領域を作ることでpn接合ダイオードを形成し、電界を加えて発光スペクトルを計測した。発光強度のゲート電圧およびバイアス電圧依存性についても調査した。その結果、フォトルミネッセンスと同等の線幅の電界発光スペクトルが得られ、加熱や電界の影響がほぼ無視できる状況でも電界発光を起こせることが明らかになった。また、ゲート電圧により静電的に形成したpn接合由来の発光であることが確認できたほか、分割ゲート電圧によるデバイスの再構成が可能であることを実証した。 バンドギャップ収縮のゲート制御については、架橋ナノチューブ電界効果トランジスターを用いた光伝導度測定によるバンドギャップ収縮の調査に着手した。これまでに自由キャリアに対応する連続準位による光伝導度ピークが観測されており、バンドギャップエネルギーの直接測定が可能となっているため、ゲート電圧により電荷を蓄積した際のバンドギャップ収縮の直接測定を試みた。その過程で、水分子によるゲート電圧の遮蔽について検討したところ、分子の吸着がバンドギャップ収縮および励起子束縛エネルギーに与える影響が明らかになってきた。励起レーザーの強度を上げることで架橋カーボンナノチューブの温度が上がって分子が脱離し、その結果として発光および吸収特性が変化する現象が観測されている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、単一の架橋カーボンナノチューブを組み込んだデバイスにおいて、ゲート誘起キャリアを利用した光物性制御と光電変換の手法実証に取り組み、顕微分光によりフォトルミネッセンスや光伝導度、電界発光測定を行うことにより、キャリアが引き起こす諸現象とその機構を明らかにすることを目的としている。 今年度は、分割ゲート式ダイオード構造を用いてゲート電圧によりpn接合を静電的に形成し、フォトルミネッセンスとほぼ同じ線幅の電界発光スペクトルを得ることに成功している。また、ゲート電圧を反転させることで誘起キャリアの種類を変更してデバイスの再構成が可能であることを示している。さらに、分子吸着がバンドギャップ収縮に与える影響についても知見を得ており、おおむね順調に研究が進んでいると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後も引き続きゲート誘起キャリアを利用した励起子生成とバンドギャップ収縮のゲート制御に取り組む。 ゲート誘起キャリアを利用した励起子生成では、分割ゲート式ダイオード構造に架橋カーボンナノチューブを組み込んだデバイスにおける電界発光の効率向上を目指す。シリコン・オン・インシュレーター基板のトップシリコン層を熱酸化することにより分割ゲートとした架橋カーボンナノチューブトランジスターにおいて、分割ゲートに正負の電圧を加えてp領域とn領域を作ることでpn接合ダイオードを形成しているが、架橋幅・ゲート長・触媒種類および配置などの最適化を進める。触媒の種類や配置などにより電極金属への接触抵抗の低減をねらい、また、架橋幅やゲート長により発光強度の改善を目指す。電界発光のゲート電圧およびバイアス電圧依存性について詳細に調査するほか、スペクトルの線幅や発光波長についても解析し、発光効率を向上させる。また、ゲート電圧を利用したキャリアの保持および再結合を調査するための時間分解測定系の立ち上げにも着手する。 バンドギャップ収縮のゲート制御については、架橋カーボンナノチューブ電界効果トランジスターを用いた光伝導度測定に引き続き取り組む。また、大気分子の吸着がバンドギャップ収縮および励起子束縛エネルギーに与える影響について、詳細を明らかにするための測定を進める。励起波長や強度依存性を調査することで吸着分子のバンドギャップ収縮および励起子束縛エネルギーへの影響を明らかにする。また、時間分解測定により分子の吸着および脱離のダイナミクスに関する知見を得ることを目指す。
|