研究課題/領域番号 |
16H05964
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
新見 康洋 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (00574617)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | スピントロニクス / メゾスコピック系 / 超伝導体 / 超薄膜 / 超伝導材料・素子 |
研究実績の概要 |
スピン角運動量の流れである「スピン流」は、スピントロニクス研究の根幹を担う。スピン流を効率よく生成・検出するために、これまで様々な研究が行われているが、スピン流を用いたデバイス応用に向けて解決すべき課題は多い。最近の研究で、超伝導体にスピン流を注入すると、スピン流の検出効率が劇的に増大することが報告されている。しかし、一般に超伝導状態は低温に限られるため、より超伝導転移温度Tcの高い超伝導体での研究が必要である。そこで本研究課題では、原子層超伝導体に電界を印加することでTcを上昇させ、スピン流の検出効率を劇的に向上させることを目的としている。さらに本研究では、超伝導スピントロニクスの将来性を実証するための重要な応用例として、2次元原子層超伝導体をスピン流検出に、グラフェンをスピン流伝搬に用いた超高感度磁気センサを開発することが最終的な目標である。 昨年の研究で、原子層超伝導体NbSe2や高温超伝導体Bi2Sr2CaCu2O8+x(Bi2212)と、スピン輸送素子に用いるCuとの相性が悪いことが分かったので、これらの原子層超伝導体とグラフェンとを重ねた素子の作製に主眼を置いて実験を遂行した。その結果、Bi2212とグラフェンの2層薄膜では、近接効果に起因する抵抗の減少の観測に成功した。 一方で、原子層超伝導体をスピン輸送に組み込む際に、細線を作製する必要があったが、一昨年度までの研究で、超伝導性を保ったまま細線に加工することが非常に困難であることが分かった。そこで、昨年度から直接強磁性体を接合させるだけで逆スピンホール効果を評価する手法の確立に取りかかった。 また昨年度から、超伝導転移は示さないが24 K程度で反強磁性転移を示す2次元三角格子層状物質Ag2CrO2の研究を開始した。その結果、スピンゆらぎを反映した特異な磁気抵抗、及びホール抵抗の観測に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度は、超高感度磁気センサの開発を見据えて、Bi2Sr2CaCu2O8+x(Bi2212)とグラフェンを接合させる研究を開始し、Bi2212の超伝導転移温度以下で、近接効果による抵抗の減少を観測することに成功している。また上述したように、当初予定していた、原子層超伝導体の細線化が難しいことが、研究を遂行していく中で新たに分かってきた。特に超伝導転移温度を保ったままの細線加工は、現在保有している装置では非常に難しい。そこで細線加工をせずに、超伝導スピンホール効果を測定できる手法を現在開発中で、その目途もおおよそ立ちつつある段階に来ている。 またスピンのゆらぎを電気的に検出するという観点では、昨年度から新たに開始した、反強磁性体Ag2CrO2薄膜素子の研究も、本研究の進展に大きく貢献するものであった。実際にAg2CrO2の電気輸送測定を行ったところ、スピンゆらぎ由来の特異な磁気抵抗と、スピンカイラリティに起因したトポロジカルホール効果の観測にも成功し、現在論文に投稿中である。 上述の内容は、当初予定していた内容を超える成果であったこと、さらにその内容を論文に投稿できたことから「(1)当初の計画以上に進展している」を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、Bi2Sr2CaCu2O8+x(Bi2212)とグラフェン、さらにスピンゆらぎの強い系としてAg2CrO2を接合させた系を作製し、スピンゆらぎによるわずかな磁化の変化を、超伝導スピンホール効果を用いて検出する研究を行う。また現在、超伝導転移温度の減少の要因となる細線加工や、グラフェンとの接合も行わず、原子層超伝導体に単に強磁性体電極を取り付けるだけで、逆スピンホール効果を観測する手法を開発している。この仕組みが完成すれば、複雑な接合や細線加工の必要なく、さまざまな原子層超伝導体で巨大スピンホール効果を観測することができるようになる。例えば、電界効果で大きな超伝導転移温度の増強が見込めるFeSeやトポロジカル超伝導体の候補物質にも同様の手法を用いることで、当初の計画になかった成果を上げることも期待できる。
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