研究課題/領域番号 |
16H05975
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
野崎 友大 東北大学, 工学研究科, 准教授 (10610644)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 電気磁気効果 / 磁化の電界制御 / 反強磁性体 / スピントロニクス / 酸化物 |
研究実績の概要 |
次世代のスピン制御技術として磁化の電界制御が注目されており、Cr2O3の電気磁気(ME)効果と交換バイアスを利用した磁化の電界制御は、本研究者らが世界で初めてCr2O3薄膜でME効果を観測したことから、デバイス応用に向けた有用な候補の一つとなっている。しかし、薄膜化することで、制御に必要なエネルギー(EH積)が2~3桁も増加してしまうことがデバイス応用の可否に関わる深刻な問題となっている。このME効果と交換バイアスを利用する磁化の電界操作の基礎原理を明らかにし、EH積をデバイス応用に可能な値まで低減することを目的として、本年度は、電界磁界中冷却を用いた反強磁性ドメイン反転の調査を行った。薄膜化によるEH積の増大の原因として、1)薄膜化に伴うCr2O3の電気磁気特性の低下、2)膜厚の減少に伴う界面の効果(交換バイアスの効果)の増大の2つが予想されていた。我々はCr2O3薄膜の電気磁気効果係数を測定することに成功し、その結果から、バルクと薄膜で電気磁気特性の大きな変化は起こっていないことを明らかにした。また、Cr2O3/Co交換結合膜に種々のスペーサ層を挿入することで交換バイアスがEH積に与える影響を詳しく調べ、交換バイアスのエネルギー(Cr2O3の膜厚の逆数と交換バイアスの大きさに比例)が大きくなるに従いEH積も増大するという傾向を見出した。さらに、これらの結果をもとに、電界磁界中冷却の際に支配的となるエネルギーを記述する式を提案し、反強磁性体であるCr2O3から少量の磁化が生じるときに、交換バイアスのエネルギーとCr2O3の磁化に対するゼーマンエネルギーを競合させることができ、小さなEH積での磁化反転が可能であることを提唱した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の取り組みにより、Cr2O3の電気磁気効果と交換バイアスを利用した磁化の電界制御のデバイス応用の可否に関わる大きな問題となっていた、薄膜化に伴う制御に必要なEH積の増大の最大の原因を突き止めることができ、電界磁界中冷却の際に支配的となるエネルギーを記述する式を提案することができた。このようなエネルギーを記述する式が得られたことにより、EH積低減の指針も得られ、デバイス応用において現実的な電圧による磁化反転も可能であることを示すことができた。これらはもともとH29年度半ばまでに達成することを想定していた内容であり、当初の計画以上に進展しているといえる。現在の知見によると、反強磁性体であるCr2O3から少量の磁化が生じるときに、交換バイアスのエネルギーとCr2O3の磁化に対するゼーマンエネルギーを競合させることができ、小さなEH積での磁化反転が可能であることが明らかになったが、Cr2O3の磁化の影響は大きく、磁化の大きさが少し変わってしまうだけでEH積も大きく変わってしまう。さらに、Cr2O3から磁化が生じる原因がまだ明らかになっていない。さらなる調査のために、Cr2O3の磁化の制御方法の確立が不可欠であることが新たな課題として見つかった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の取り組みにより、電界磁界中冷却を用いた反強磁性ドメイン反転の場合、交換バイアスのエネルギー(Cr2O3の膜厚の逆数と交換バイアスの大きさに比例)が大きくなるに従いEH積も増大するという傾向があること、交換バイアスのエネルギーをCr2O3の磁化に対するゼーマンエネルギーと競合させることで低エネルギーでの磁化制御が可能であることを明らかにした。そこで明らかになったことは、反転エネルギーはCr2O3の磁化の大きさにかなり敏感であるということである。今後、他の効果の影響を調べたり、等温電界磁界印加の実験に移っていったりするにあたり、Cr2O3の磁化の精密制御が不可欠である。これまで、Cr2O3から磁化が生じるという報告自体はいくつかあるものの、その原因がまだ明らかになっていない。そこでまずは、Cr2O3の磁化の起源の解明と磁化の大きさの精密制御に取り組むこととする。Cr2O3の磁化の調査は新たな課題ではあるが、EH積へ影響が大きく今後の調査に大きく影響するというだけでなく、Cr2O3の特性解明にとっても極めて重要な意味があるため、早急に取り組む。これらCr2O3の磁化の調査を行ったうえで、改めてさらなる調査のための膜構造の検討を行い、その後に続く等温電界磁界印加による磁化反転の実験につなげていく。
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