研究課題
次世代のスピン制御技術として磁化の電界制御が注目されており、Cr2O3の電気磁気(ME)効果と交換バイアスを利用した磁化の電界制御は、本研究者らが世界で初めてCr2O3薄膜でME効果を観測したことから、デバイス応用に向けた有用な候補の一つとなっている。薄膜化することで、制御に必要なエネルギー(EH積)が2~3桁も増加してしまうことがデバイス応用の可否に関わる深刻な問題となっているが、昨年度までの取り組みにより、電界磁界中冷却の際に支配的となるエネルギーを記述する式を提案することに成功し、Cr2O3から少量の磁化が生じるときに小さなEH積での磁化反転が可能であることを提唱した。H29年度はこのモデルの実証と、Cr2O3への磁化の付加・制御方法の確立に取り組んだ。モデルの実証に当たっては、我々が作製するCr2O3薄膜には微量の磁化が生じていることを発見し、その磁化を利用した反強磁性ドメインの低エネルギー反転を実証することに成功した。加えて、交換バイアスの大きさを変化させた試料に対して系統的に反強磁性ドメインの反転実験を行うことで、提案したモデルの妥当性も実証した。これらにより、反強磁性ドメイン反転エネルギーの低減の目途が立った。一方で、無置換Cr2O3に生じる磁化は大きくなく、更に制御ができないため、低エネルギー反転の実現は、Cr2O3の膜厚が厚い領域に限られていた。本年度はこの磁化の制御方法の確立にも取り組み、Cr2O3へAlやIrなどの異種元素のドープを行うことで磁化を付加することができ、そのドープ量とドープ種を変えることで、それぞれ磁化の大きさと方向を制御できることを見出した。これにより、実応用で重要となる膜厚の薄いCr2O3薄膜の反強磁性ドメインの低エネルギー反転への目途を立てた。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度の取り組みにより、Cr2O3の電気磁気効果と交換バイアスを利用した磁化の電界制御のデバイス応用の可否に関わる大きな問題となっていた、薄膜化に伴う制御に必要なEH積の増大の最大の原因を突き止め、実際に、低エネルギーで反強磁性ドメインが反転することを実験で示すことに成功した。加えて、前年度に提唱した、電界磁界中冷却の際に支配的となるエネルギーを記述する式の妥当性を示すことにも成功した。これらの成果は電気磁気効果を用いた反強磁性ドメインの反転の機構の解明に大きく寄与するものであり、大きな進捗が得られたといえる。また、薄いCr2O3薄膜においても低エネルギーで反強磁性ドメインを反転させるために必要となるCr2O3の磁化の制御においても、ドーピングによる磁化の制御方法を確立することに成功し、大きな進展がみられた。以上のことから、当初の計画に加えて新たに見つかった課題に対しても進展がみられていることから、当初の計画以上に進展していると考えられる。
本年度の取り組みにより、電界磁界中冷却の際に支配的となるエネルギーを記述する式の実証とCr2O3の磁化の制御が実現された。しかしまだ磁化を制御したCr2O3を用いた、Cr2O3の膜厚が薄い領域における低エネルギーでの反強磁性ドメインの反転・制御は実現できていない。これまでの成果をもとに、今後はこの課題に取り組む。加えて、さらなる調査のための膜構造の検討を行い、等温電界磁界印加による磁化反転の実験につなげていく。
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