研究課題
本研究では、半導体内部の電荷の空間分布を可視化できる申請者の独自技術(ゲート変調イメージング法)をナノ秒時間分解測定に発展させることで、多結晶薄膜デバイスの性能を強く制限するとされる結晶粒界を介したμmオーダーの局所伝導機構を明らかにすることを目的とする。H28年度前半は、定常状態測定の高空間分解能化に注力し、ペンタセン多結晶薄膜をチャネルとする有機薄膜トランジスタについて、結晶粒のサイズ(>3μm)よりも十分に高い空間分解能(<1μm)でのゲート電界誘起蓄積電荷の空間分布イメージングに成功した。これにより、電荷密度が低いことを示す信号成分が結晶粒の中心付近に分布しているのに対し、トラップに対応すると考えられる電荷密度の高い信号成分が結晶粒界付近に集中するなど、有機半導体多結晶膜の不均質な電荷分布の様子を初めて明らかにした。また結晶粒サイズが小さく低移動度の多結晶薄膜では、トラップに対応する信号成分の増加が観測されるなど、電気特性に対してリーズナブルな結果が得られることを確認した。年度後半は、LEDのパルス発光をシャッターに用いた時間分解能3μs程度での時間分解測定の予備実験に取り組み、結晶粒界近傍の局所伝導を捉えるには100 ns程度の時間分解能が必要との見通しを立てた。さらに、大幅な高時間分解能化に向け、イメージインテンシファイアと高輝度LEDを組み込んだ新たな装置の構築に取り組んだ。また、当所想定していなかった成果として、本手法を強誘電体に適用し、外部電場による微弱な光学変化を測定すると、向きが真逆の分極ドメインが外部電場に対して反対符合のStark効果を示すことに由来して、分極ドメインの空間分布を可視化できることが分かった。
1: 当初の計画以上に進展している
H28年度に実施した研究により、多結晶性有機薄膜トランジスタについて、結晶粒サイズよりも十分に高い空間分解能(<1μm)での電荷の空間分布イメージングに成功しており、H28年度の目標は達成できた。さらに、予備実験により、時間分解能3μs程度での時間分解測定にも成功しており、研究期間全体を通しての目標であるナノ秒時間分解測定に向けたマイルストーンを順調にクリアできている。さらに、当初想定していなかった成果として、本手法が強誘電体の分極ドメインイメージングに応用できることを見出すなど、開発技術の新たな可能性を見出すこともできた。
H28年度までに実施した研究により、時間分解能3μs程度での時間分解測定に成功するとともに、さらなる高時間分解能化に向け、イメージインテンシファイアと高輝度LEDを組み込んだ新装置を構築している。H29年度は、この新装置を用いたナノ秒時間分解測定に取り組み、結晶粒界の局所伝導の様子を実際に捉える研究に注力する。メインの測定対象は有機半導体多結晶薄膜であるが、比較として単結晶やアモルファス試料についても測定を行うことで、異なるサイズの構造不均質性に対して伝導機構がどのように変化するかを明らかにする。
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すべて 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 2件、 査読あり 9件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (18件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件) 備考 (2件) 産業財産権 (1件)
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