研究課題
平成28年度は、結晶-融液界面を精密に観察するための実験システムの構築に特に力を入れた。具体的には、ジャパンハイテック株式会社の協力の下、融液相と結晶相の間に任意の温度勾配を作り出すことが可能な顕微鏡用観察セルを導入し、独自の光学顕微鏡システム(レーザー共焦点微分干渉顕微鏡)へ組み入れることに成功した。また、二光束干渉計の改良も行い、レーザー共焦点微分干渉顕微鏡による高感度観察と同時に、高さプロファイルを定量的に読み取るための任意の干渉縞を得ることができるようになった。また、当初の研究計画では想定していなかったが、融点近傍で氷表面に生成する擬似液体層の内部を前進する氷の単位ステップを見出したことから、擬似液体層-氷結晶界面の結晶成長動力学の研究にも着手した。この系はバルク融液-結晶界面とは異なるが、液相-結晶相の界面の一種であり、本研究課題との関連が深い。これまでの研究から、擬似液体層中でのステップ前進速度が、(i)気相成長と同程度にとどまっていること、(ii)ステップの動力学は潜熱の輸送効果を含まない純粋な取り込み律速で説明できること、(iii)単位ステップが擬似液体層内部からの均一二次元核生成、擬似液体層の接触線からの不均一核生成の二通りにより生じること、が明らかになった。特に、液中での単位ステップの存在は、液体と結晶を明確に分ける界面が存在すること、つまり二相間の相関長が一分子以下であることを示唆している。この結果は、「同じ凝縮相であり、密度が数パーセントしか違わない結晶と液体が界面においてどう区別されるのか?」という根本的な問いに対する新たな知見となることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
上述の通り、本研究課題を遂行するためのより優れた実験系を構築することができた。加えて当初の研究計画にはなかったが、氷表面上における擬似液体層について、擬似液体層-氷結晶界面の結晶成長の素過程(単位ステップの動力学)を明らかにすることができた。
昨年度に引き続き、結晶-融液界面に局在する融液とは異なる新たな液体薄膜の物性、およびその生成条件を調べる予定である。昨年度の研究により、融液相と結晶相の間に温度勾配を作り出すことで界面位置を静止させ、より精密なその場観察が可能となった。今年度は研究の主目的ともいえる氷-水界面での観察も行い、本現象の普遍性を確認する。また、昨年度の研究により、氷結晶表面に存在する擬似液体層内部での結晶成長の素過程が明らかになってきた。擬似液体層はバルク融液相とは異なるが、この実験系も液相-結晶相の界面の一種であり、上述した一般的な結晶-融液界面との相違点は極めて重要である。今年度は新たにこの点についても研究する予定である。以上に加え、オリンパス株式会社の協力の下、超高感度位相差顕微鏡システムを構築し、より高速度・高感度な結晶-融液界面のその場観察を目指す。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件)
Scientific Reports
巻: 7 ページ: 43157
10.1038/srep43157
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
巻: 113 ページ: E6741-E6748
10.1073/pnas.1608888113