研究課題
研究初年度の28年度は新しくフェムト秒レーザーを導入し、LiNbO3結晶を用いたパルス面傾斜法THz発生方式によって、10kV/cmのTHzパルス強度、帯域1THz、1MHzの高い繰り返し周波数のTHzパルス光を作成することに成功した。このようにして発生させた高強度THzパルスと現有の低温超高真空STMを組み合わせることでTHz-STMを開発した。開発した装置を用いて、THzパルス誘起でトンネル電流が増大することが確認できた。またトンネル電圧を印加しない状態でTHz光を照射し、THz誘起電流のみをフィードバック信号としてSTM動作させることによりいグラファイト表面の観察を行った。その結果、通常のSTM像と同様の原子分解能でグラファイト表面の格子像を観察することに成功した。このTHz誘起トンネル電流は、THzパルス電場がトンネル接合に印加されている1ps秒以下の時間スケールでのみ流れることから、超高速領域での試料の電子状態変化を捉えることが可能であり、この結果は、開発した装置がサブピコ秒の時間分解能と原子レベルの空間分解能を両立することを示している。次に光ポンプ-THzプローブ光学系を構築し時間分解計測を行った。InAsやWSe2などの半導体試料を用いて光ポンプにより生成したキャリアのダイナミクスの計測を試みたが、現時点では時間分解信号よりも大きいノイズがトンネル電流に乗っていることが原因で計測はうまくいかなかった。問題となったトンネル電流のノイズは、THz光を照射することで発生することが分かった。ノイズ低減のためには低いTHz強度での実験が必要であり、そのための装置改良対策を検討した。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画では、平成28~29年度の2年間で装置開発を行う予定であったが、現時点ですでに装置は完成しており、当初の計画以上に進展しているといえる。完成した装置を用いてすでに測定を開始しているが、最終目標の時間分解計測を実現するために解決しなければならない問題点が明らかとなり、現在装置の改良を進めている。
平成28年度の研究成果より、THzパルス誘起のトンネル電流を観測することができたが、THzパルス強度を強くしていくとトンネル電流にノイズが現れてしまい安定な測定が難しくなることがわかった。さらに、1kV/cmを超える強度のTHzパルスを照射するとSTM探針または試料表面の破壊が起きることが分かった。これらの現象が起こる理由としては、THzパルス印加時にトンネル接合に印加される実効的なTHz電圧が大きく、瞬間的にμAを超える大きなトンネル電流が流れてしまうことが考えられる。そのため、トンネル電流の不安定化や破壊が起きない弱いTHz強度での測定を可能にする必要がある。対策として、fA(フェムトアンペア)レベルの微弱なTHz誘起電流を観測できるようにするために、1.トンネル電流プリアンプの改良、2.信号線を介して発生するノイズの除去、3.電源の安定化などを行う。対策を行ったのち、光ポンプ-THzプローブ光学系を用いて時間分解計測を行う。まずはInAsやMoS2などの半導体試料を用いて、光ポンプにより励起された光キャリアのダイナミクス、緩和過程の観測を試みる。
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