研究課題
本研究で開発した時間分解THz-STMはTHzパルスをSTMのトンネル接合に照射し、THzパルスによって誘起された過渡的なトンネル電流を用いて試料の超高速ダイナミクスをピコ秒時間分解能で計測する手法である。これまでの実験結果より、微弱なTHz誘起トンネル電流を高精度に計測するためにはシステム全体の安定化・低ノイズ化を行う必要性が明らかになり、以下の対策を行った。(1) 防音ブースを導入しSTMとレーザー光学系を実験室の騒音、空調から隔離することによって光学系の安定化、STMの低ノイズ化を行った。(2) STM探針先端へ照射するレーザースポット位置をリアルタイム制御するシステムを開発。常にレーザースポットの中心を探針先端に来るようにフィードバックすることでレーザースポット位置揺らぎに伴う信号強度の揺らぎを低減した。(3) 低ノイズ電流プリアンプの導入これらの対策の結果、安定な時間分解計測が可能になった。セレン化ビスマスを対象とした実験では、赤外パルスによって励起されたホットエレクトロンのダイナミクスの計測に成功した。THz電場強度を連続的に変化させながらTHz誘起トンネル電流を計測することで光誘起された過渡的な電子状態の変化を捉えることに成功した。また2H-テルル化モリブデンとした実験では、赤外パルスによって励起された光キャリアの緩和過程を計測することに成功した。次に、さらなるS/N比向上のためにレーザーの繰り返し周波数の上限を1MHzから50MHzへと引き上げるためにレーザー装置のアップグレードを行った。
2: おおむね順調に進展している
これまでのシステムの開発・改良によって実際にピコ秒時間分解能で様々な試料の高速ダイナミクスが計測可能になってきており、十分な装置性能を実証することができた。本研究計画の目標としていた装置の開発はほぼ完了しており、順調と判断できる。
レーザーの繰り返し周波数の上限を1MHzから50MHzへ高繰り返し化したことに合わせて光学系の最適化を進める。THz発生用の結晶をレーザーによる損傷から守るために結晶冷却装置を開発し、これまでより高強度のパルス光によるTHz発生を可能にし、時間分解THz-STMに適した高強度、高繰り返しのTHzパルス光源が実現する。開発した装置を用いて、2硫化タンタルなどの電荷密度波絶縁体における光誘起相転移ダイナミクスの時間分解イメージングを行い、原子分解能とピコ秒時間分解能を両立した計測の実現を目指す。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
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