研究課題
本年度はc面サファイア基板上に様々なチタン:酸素比を持つ薄膜を作製する条件探索を行った。パルスレーザ堆積法を用い、原料ターゲットから還元チタン酸化物TiOx(x =~1.5)を活用し、~1000℃の高温下かつ不活性なAr雰囲気下で薄膜を作製した。基板温度やAr分圧を変化させることで、チタン酸素比が1:1のTiOから1:2のTiO2までの薄膜が単結晶で得られた。また、TiO, Ti2O3, gamma-Ti3O5を含む共晶薄膜が、直接合成、TiO薄膜のアニールの両手法で得られることも明らかとなった。また、ペロブスカイト構造を持つLSATやLaAlO3(100)基板を用いることで、マグネリ構造を持つTi4O7相を薄膜で安定に作製できることが明らかとなった。gamma-Ti3O5やTi4O7の薄膜の作製は初である。得られた薄膜の詳細な構造は、Spring-8の放射光X線回折を用いて明らかにし、Ti3O5やTi4O7の面直、面内配向を決定した。得られた薄膜の電子物性を、物理特性評価システムを用いて評価を行った。その結果、TiO薄膜では2K以上では超伝導が観測されないこと、Ti2O3薄膜ではバルクと同様に金属-絶縁体転移が観測されるものの、その転移温度がはるかに低いといったバルクとは異なる物性が明らかになった。一方で、Ti4O7薄膜ではバルク体と同様に150 K付近でヒステリシスを伴う金属絶縁体転移が観測された。上記一連の研究を行うため、本研究費を活用して既存の薄膜作製装置に赤外線レーザ加熱機構を設置した。これにより、基板温度1000℃以上の加熱を実現し、還元型チタン酸化物薄膜の合成スループットを上げることができた。
1: 当初の計画以上に進展している
現在までに、様々な組成を持つTiOx薄膜の作製条件を確立し、X線回折を用いてその構造を評価する手法を確立した。また、電子物性においてもバルクと異なる得意な転移を見出し、単純チタン酸化物に関する基礎的な知見が多く得られている。
今後の研究方針として、超伝導などの極低温物性の探索や、バッファー層を用いた電子物性制御、イオン液体を用いた電気二重層トランジスタにより外部応答での電子物性制御を目指す予定である。そのため、デバイス加工プロセスを確立していく。また、酸化物材料を拡張し、バナジウム酸化物やニオブ酸化物の研究を進めていく予定である。
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