研究課題/領域番号 |
16H05984
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
山崎 詩郎 東京工業大学, 理学院, 助教 (70456200)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 走査トンネル顕微鏡 / 原子間力顕微鏡 / 原子スイッチ / 原子操作 / 表面 / 薄膜 |
研究実績の概要 |
走査トンネル顕微鏡(STM)は鋭い探針を観察対象にトンネル領域まで近づけて走査することで、原子分解能像を得るのみならず、原子を一つ一つ動かす原子操作や原子スイッチが可能な顕微鏡である。研究代表者は、Si(111)-7×7半導体表面上に原子操作によって4つのSi原子が傾いて結合したSi4原子スイッチを作製し、世界で初めてSTMのトンネル電流と原子間力顕微鏡(AFM)の探針相互作用力の両方で同時に原子スイッチさせることに成功した[論文Nano Letters]。本研究計画ではその方向性を正当進化させ、隣接するSi4原子間の相互作用を解明し、さらにグラフェンやトポロジカル系上での原子スイッチの機構の解明を目指した。 装置の立ち上げに関して、当初の計画通りNANONIS社製のSPMコントローラーを導入した。さらに、UNISOKU社製のトップロード型の低温走査トンネル顕微鏡の搬入を済ませ、周辺真空機器や実験室の整備を入念に行った。研究成果に関して、第一の目的であった相互作用する双子Si4-Si4原子スイッチについては、国際学会を含む8回の学会発表(表面科学学術講演会、日本応用物理学会、ACSIN2016, ICSPM, NC-AFM2017, ISSS8、他)や招待講演(横浜国立大学、上海交通大学)で発表した。また、本研究計画の準備にもつながる研究が予想以上に広がり、ディラック系の派生から液滴法によるグラフェンの作成[論文]、トポロジカル系の派生からBi(110)薄膜の原子構造と電子状態の偶奇性[論文PRB]、低温蒸着によるトポロジカル表面と予想されている(111)面の形成[国際学会発表]があった。関連して、Ag薄膜での鏡像準位の観測[論文PRB]と界面構造の解析[論文JJAP]あった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【装置改造1:原子スイッチのためのデジタル式STMコントローラー導入】原子スイッチに必要な要素は、探針位置を原子の上で自由に位置決めし、プログラムしたタイミングでパルス電圧をかける高い探針の自由度である。入念な調査と準備を行い、世界的に相次いで採用されているナノニス社製のデジタル式STMコントローラーを計画通りに導入した。コントローラーを組み上げて、正しいスキャン信号が出力されていることを確認した。 【装置改造2:原子スイッチのための極低温型STMの導入への準備】東北大との共同研究により、UNISOKU社製低温STMを導入し、5月に現所属へ搬入した。東大、東工大との共同研究によりSTMの立ち上げに必要な真空備品を数十点程度搬入した。装置を設置するために実験室を借り、清浄な環境とインフラの整備を入念に行った。 【計画1:隣接する双子Si4原子スイッチ間の相互作用の解明】国際学会を含む8回の学会発表(表面科学学術講演会、日本応用物理学会、ACSIN2016, ICSPM, NC-AFM2017, ISSS8、他)や招待講演(横浜国立大学、上海交通大学)で発表した。 【計画2-1:ディラック系原子スイッチの準備、グラフェンの研究】液滴法を用いた折り曲げ欠陥を持つグラフェンの作成とAFM、SEMによる詳細な解析を行った[論文]。グラファイトの回転積層欠陥であるモアレ構造上でファンホッフ特異点と鏡像準位を観測した [国際学会]。 【計画2-2:トポロジカル原子スイッチの準備、Bi超薄膜の研究】Bi(110)超薄膜の構造が偶数層と奇数層で異なる偶奇性を示すことをSTMおよびSTSにより発見した[論文PRB]。Biを150Kで低温蒸着することでトポロジカル状態と予測される2MLのBi(111)面を局所的に作成し、STMで5nm程度に局在した+200mVのエッジ状態のピークの兆候を得た。
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今後の研究の推進方策 |
【装置改造2:原子スイッチのための極低温型STMの導入とAFM機能の追加改造】原子スイッチに必要な要素は、試料/装置が長短時間熱変形で動かない試料/装置の安定性である。原子スイッチの研究には3日連続で同じ原子のど真ん中で数百回原子スイッチを繰り返すなど高いレベルの安定性が求められる。そのため、低温での安定性に定評があるトップロード型のUNISOKU社製極低温型STMを搬入済みである。引き続き、除振台の底上げ工事を進め、H30年度 9月にSTMとして再稼働させる。また、AFM機能に必要な加振と検出を行う2本の電気配線を組み込む改造と開発を行う。 【計画1:隣接する双子Si4原子スイッチ間の相互作用の解明】研究代表者は2つのSi4原子スイッチが隣接した双子Si4原子スイッチの作製に成功し、相互作用の兆候を得ている。まず、原子スイッチが起きない低電圧/低電流でSTM測定を繰り返し、2×2=4種類と予想される双子Si4原子スイッチの基底状態を確認する。もしその存在比が1/4でなければ相互作用があり、4基底状態のエネルギーの縮退が解けたことが分かる。さらに、高電圧/高電流でSTM測定を行い、STM像変化から原子スイッチを確認する。もしスイッチ方向の頻度に偏りがあればここからも相互作用があることが分かる。この時点で共同研究者に理論計算を依頼し、STM像を再現する構造モデルを探す。次に、定量解析から、4基底状態間の4×3=12種類のスイッチ効率を求める。ここから、一方のスイッチ状態が他方のスイッチバリアーを下げるSi原子触媒効果があることを確かめる。さらに次年度からは、複数のSi4原子スイッチ回路による論理演算の実証、トポロジカル原子スイッチの創生とトポロジカル絶縁体での原子スイッチ機構解明に挑む。
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