研究課題
本研究では、溶液中で反応過程にあるナノ粒子や生体試料の高分解能に観察することを目標に、X線自由電子レーザー(X-ray free-electron laser : XFEL)を利用したコヒーレント回折イメージング法と、マイクロ流路デバイスによる液中反応制御技術を組み合わせた新たな顕微法を開発することを目指している。平成30年度は当初の研究計画通り、これまで開発を行っていたXFEL用破壊計測型マイクロ流路デバイスのさらなる高度化と、取得したコヒーレント回折パターンデータの高精度・高効率解析法の開発に取り組んだ。XFELでの計測に対応したマイクロ流路デバイスの開発では、X線透過窓となる窒化ケイ素薄膜を備えた流路構造を、リソグラフィやドライエッチングといった半導体プロセス技術を利用して作製している。昨年度までに、サブμm精度を有するマイクロ流路デバイスアライメント・組立装置を開発し、12 mm角のチップ上にX線照射窓数を528個まで大きく向上させることに成功しているが、さらに従来の4倍程度以上の大面積のチップを利用し、作製プロセスを改善することにより、マイクロ流路デバイス構造を洗練・最適化し、溶液試料保持・導入機構の改善を目指した。また、XFELを利用したコヒーレント回折X線パターン取得の基礎実験では、マイクロ流路デバイス内微小試料解析用に新たに開発したナノ粒子トラッキング解析を利用した溶液試料のオフラインでの試料サイズの評価と、SACLAでのイメージング結果がよく一致することを確認し、液中での試料状態をXFELの実験前も評価可能であることを確認した。また、取得したコヒーレント回折パターンデータの解析に関しても高度化に取り組み、取得した多数のデータに対する自動解析処理プログラムの開発も行った。
2: おおむね順調に進展している
これまでの研究進捗状況としては、本研究で開発する破壊計測型マイクロ流路デバイスの作製・高精度化を行い、実際にデバイス中のナノ粒子からのコヒーレント回折パターン取得し、オフライン計測でのデータとの比較に成功するなど、当初計画に沿った順調な進展が得られている。破壊計測型マイクロ流路デバイスの作製では、新たに導入したマスクレス描画装置やドライエッチング装置などの半導体プロセス装置を利用して作製したマイクロ流路デバイスの試作・評価を行っており、さらに効率的な計測を目指した高集積化デバイスの作製も行った。SACLAでのXFEL実験では、デバイス内部の金ナノ粒子集合体から、問題なく再構成可能なコヒーレント回折パターンを取得することに成功しており、オフライン計測によるデータとの整合性も取れており、本研究の基本構想に問題がないことを確認できている。これらの成果を元に、令和元年度以降様々な液中試料の計測実験を、マイクロ流路デバイスのさらなる高度化と並行しながら、SACLAを利用して実施していく予定である。計測対象の選定に関しては、北海道大学電子科学研究所の三友准教授などの協力を得て、化学上の意義も考慮しながら選定を行う計画である。
これまでの研究成果を踏まえ、今年度はSACLAを利用した液中試料のイメージング実験を行うとともに、本イメージング開発のために必要なXFEL用マイクロ流路デバイスの高度化に引き続き取り組む計画である。SACLAを利用した液中試料のイメージング実験では、まず計測対象とするナノ試料の選定を行う。ナノ試料の選定に関しては、マイクロ流路の流速・流量といったパラメータに適するかといった条件以外にも、科学的な意義も考慮する。本件に関しては、機能性ナノ粒子の合成に関して造詣の深い専門家である、北海道大学電子科学研究所の三友准教授などの協力を得て行う計画である。また、選定した対象をマイクロ流路デバイス中で反応させるための条件最適化を、これまで本研究で開発してきた可視光レーザーを利用したナノ粒子トラッキング解析技術を利用して行う。これらの情報をもとに、条件を最適化された溶液試料をSACLAで計測し、マイクロ流路中に導入した試料のXFELによるフェムト秒イメージングの実現を目指す。また、理化学研究所・高輝度光科学研究センターと共同で開発した多層膜X線集光ミラーを利用した世界最高性能のコヒーレント回折イメージング装置を新たに利用し、最高で数 nmに相当する分解能での液中試料の可視化を目指す。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 8件、 招待講演 2件)