研究課題
本年度は、共鳴軟X線小角散乱装置を用いて磁気スキルミオン格子の外場印可効果、マルチフェロイクス物質の多極子秩序状態の観測、コヒーレント共鳴軟X線回折による磁気イメージング計測を行った。絶縁体で磁気スキルミオンが発現するマルチフェロイクス物質Cu2OSeO3は、強電場を印加すると磁化率が変化することが観測されており、電場によって磁気構造が変化する可能性が報告されている。本研究では、強電場を印加しながら共鳴軟X線回折を行えるような装置を開発し、電場印可に伴う磁気構造の変化を測定した。その結果、ある方向に電場を印加するとスキルミオン格子に対応する6個の磁気散乱からヘリカル磁性体に対応する2個の磁気散乱へと変化する様子が観測された。これは、磁気スキルミオン構造とヘリカル磁気構造の間で電場誘起相転移が起きたことを示唆している。マルチフェロイクス物質として有名なBiFeO3では、共鳴軟X線回折によって新しい多極子として高次のトロイダルモーメントを観測することに成功した。入射軟X線の偏光を左右円偏光とすると、共鳴軟X線散乱のスペクトル形状が変化することが観測され、多極子と磁気モーメントの干渉によってスペクトル形状の変化が起きることを実証した。コヒーレントな軟X線を用いた共鳴軟X線回折では、磁気モーメントの実空間イメージング像を得ることが可能となる。実空間像観測には、磁気構造因子の位相情報を得る必要があるが、本研究では低対称なマスクを用いたオーバーサンプリング条件を課した位相回復アルゴリズムによって、高効率・高精度に実空間像を得ることに成功している。この手法によって磁気スキルミオン格子の実空間像を数十nm程度の空間分解能で観測することに成功した。
2: おおむね順調に進展している
初年度の目標として、コヒーレント軟X線回折による磁気イメージング、外場下での共鳴軟X線回折実験を挙げていた。前者については当初の予測通りの空間分解能で磁気イメージングを得ることに成功しており、後者についても電場印加によって磁気散乱の変化を観測することに成功している。本研究の目的である共鳴軟X線小角散乱による磁気ダイナミクス計測では、これらは計測技術は基盤となるものであり、当初の予定通りに開発できたことで今後の研究展開も予定通りに進められると期待される。
今年度得られた研究成果を基に、より高速な磁気ダイナミクス、高精度な磁気イメージング、様々な外場応答の観測を目指していく。磁気ダイナミクスについては、マイクロ波を照射した状態で共鳴軟X線回折を計測し、スキルミオンのマグノンに対応する信号を検出することを目指す。マイクロ波を照射できるような試料、電極を開発し、放射光のパルスと同期させる手法で検出を目指す。外場制御に関しては、電場だけでなく、電流や一軸応力、熱流、スピンカレントによる磁気構造の変化を検出する計測手法の開発を行う。これにより、例えば、電流印可によってスキルミオン格子が回転する様子などを観測することを目指す。また、高精度な磁気イメージング手法の開発については、インフォマティクスの手法を活用した新しい位相回復アルゴリズムの開発に取り組む。例えば、磁気構造の空間分をすべて計測するのではなく、スキルミオンの中心位置情報のみを高効率、高精度に計測できるようなアルゴリズムの開発を目指していく。
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日本放射光学会誌
巻: 30 ページ: 3, 12
Physical Review B
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