研究課題/領域番号 |
16H05993
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
阿部 知行 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 准教授 (70609289)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 準安定還元定理 / 特性サイクル / リーマン・ザリスキ空間 |
研究実績の概要 |
Beilinsonと斎藤により分岐理論の基礎が整備されたが、押し出しと特性サイクルの両立性は予想という形で残った。この予想は分岐理論から派生する二つの具体的なサイクルが有理同値であることを言っているが、有理同値を構成することは一般的に困難である。予想への初めのステップはこの有理同値を導くであろうサイクルを実際に構成することであった。 Beilinsonと斎藤の特性サイクルの理論では固定した層に「孤立特性」となる関数を用いて構成する。孤立特性的な関数は稠密に存在しているものの、定義されていない部分がありその部分で「不連続」になっている。このように完全に「連続」になっていないことから二つの別の孤立特性関数で構成された特性サイクルのホモトピーを構成できず、これが押し出し公式予想の最も大きな障害となっている。 本課題の前年度までの考察により関数1つを孤立特性としていた定義を広げ、「孤立特性関数族」という概念を作り、孤立特性関数族がホモトピーを構成するために十分多いことを示すための予想を定式化した。本年度ではこの予想を解決することに成功した。前年度に観察したとおり十分な量があることを示すためには、多様体の「改変」の操作が有限回で止まることを示すのが最も困難な部分であった。前年度の計画通りこれにはKedlayaの準安定還元予想のアイディアを用いる。準安定還元予想はp進コホモロジー論に於ける基本定理の一つであり、p進コホモロジーの一種であるリジッドコホモロジーの有限性を証明するのに必要な道具であるが、その主張は微分方程式の特異点の解消とも言えるような極めて強力なものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
特異点の解消のような問題を解こうとするときの最も基本的なアイディアは、特異点の悪さを測るような不変量を定義し、それを減らしていくというものである。その基本的な戦略はKedlayaの準安定還元定理の証明でも同じである。そのため今回の問題も筋の良い不変量を定義しなくてはならず、これは自明なことではない。また,Kedlayaの証明ではその不変量がリーマン・ザリスキ空間の「タイプ4点」の周りで一定であることを示すことが鍵である。これにはアダマール積の有理性という、一見して全く異なる手法を使う。これらの進展が出来たことに大いに満足している。結果は論文にまとめたが、全ての計画が終わった後に発表した方が重要性が増すと考え、まだarxiv等での発表は控え、関係者にのみ配布する形にした。
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今後の研究の推進方策 |
特性サイクルの押し出し公式を示すに当たって、次に必要となってくるのはこれまでとは全く異なる技術であると思われる。つまり、現在のところ孤立特異な関数族を使って構成したサイクルでは最終的に欲しい等号を得るようなホモトピーを作ることは出来ず、このサイクルに「コホモロジー的な操作」を施すことによって本当に必要な等号を得るものと思われる。そのためにまず必要なのはChow群をホモロジー群として持つような6つの関手の枠組みである。このような枠組みは係数に標数の逆数が入っているような状況ではAyoubやCisinski-Degliseらによって十分に満足いく枠組みが出来ている。今回はこの理論を応用することを考えているが、この既存の枠組みでは2点足りない部分があると思われる。まず、サイクルを6つの関手の枠組みという「機械」に入れるためには平坦射に対する跡射を構成する必要があるということである。エタールコホモロジーにおいてこのような跡射は構成されているので、その類似がどこまでたどれるかが問題となってくる。次に、実は最終的には極限をとることによってサイクルを構成しなくてはならないので、三角圏を係数の属する圏として持つような既存の6つの枠組みでは不十分で、無限圏への強化が必要なことである。これに関してもGaitsgory-Rozenblyumによる無限圏強化のための判定条件があるので、それを用いれば良いと考えられるが、理論が繊細なので様々な困難が予想される。いずれにしろ、これまでとは全く異なる理論が必要なので、時間がかかる可能性があるが、現代の技術で十分到達可能であると考えている。
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