研究課題/領域番号 |
16H05996
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
細川 隆史 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 研究員 (30413967)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 大質量星 / 超巨大ブラックホール / 種族III星 / ダークマター / 原始惑星系円盤 / 光蒸発 / 数値シミュレーション |
研究実績の概要 |
超巨大ブラックホールの起源となり得る初期宇宙での超大質量星の形成過程について、新シナリオを提案した(Hirano et al. 2017)。これはダークマターとバリオン間の速度差による純宇宙論的な効果に基づき、これまでの先行研究に比べて、恣意的な仮定を必要としない確度の高いものである。この状況下でダークマターの構造形成からダークハロー内のガス雲形成、ガス雲の重力崩壊と原始星への質量降着の一連の進化を粒子法による宇宙論的シミュレーションと、メッシュ法による輻射流体計算を駆使して全て追跡した。その結果、この効果は初期の小ハロー中での星形成過程を抑制し、ハローが十分大きくなってから一気に星形成を引き起こすことで超大質量星形成が可能になることが分かった。 さらに僅かに重元素がある場合の大質量星形成についても研究を進めた。まず球対称の仮定の下で質量降着段階にある原始星と周囲のガス層の両構造を全てconsistentに計算し、振動数依存の輻射輸送計算を行うことで放射スペクトルの予言を行った。この結果、低金属原始星特有の観測的特徴が初めて予言できた(Fukushima et al. 2018)。また、この計算を多次元に拡張するためのコード開発を進めた。まず最初の応用として原始惑星系円盤の光蒸発過程に着目した。この業界では首尾一貫した輻射流体計算が欠けていたために、光蒸発としてX線とFUV光とどちらが主に効くのが長らく論争が続いてきた。この論争に終止符を打ち、さらに光蒸発過程の金属量依存性までも明らかにすべく最先端の計算を行った(Nakatani et al. 2018)。この結果、太陽金属量ではX線よりFUV光の蒸発が支配的であること、さらに金属量が太陽金属の0.1以下になって初めて、FUV光の蒸発を促進する形でX線の効果が現れることを示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ブラックホールの起源と超大質量星形成は当初はこの研究計画の主テーマとは位置づけていなかったが、初期宇宙での構造形成と星形成過程を語る上では重要な過程であり、これまでの我々の仕事の自然な発展として研究が進展した。結果をまとめたHirano et al. の論文は国際的に高く評価され、米国Science誌に2017年9月に掲載された。また、低金属量下の大質量星形成については、各金属量で重要となる熱・化学反応を組み込んだ多次元輻射流体計算のコード開発を行ったが、まず最初の応用として研究した原始惑星系円盤の光蒸発過程について、この分野の進展に大いに寄与する良質の計算を行うことが出来た。以上のように、本来の研究計画の主目的に沿った進展に加えて、副産物ともいえる豊富な収穫があったので進捗は当初の計画以上の進展があったものと言える。
|
今後の研究の推進方策 |
低金属量下の大質量星形成について、これまでに開発した数値計算コードを用いて多次元計算を行う。このときの目的としては主に働くフィードバック過程が金属量に応じてどのように変わっていくかを明らかにすることを目指す。我々のこれまでの研究では、金属量ゼロの種族III星(いわゆる初代星)形成と太陽金属量の銀河系での大質量星(OB型星)形成についてそれぞれ多次元輻射流体計算を行って調べてきた。初代星形成の場合は電離光によるUV光フィードバック、銀河系のOB型星形成ではダストに働く輻射圧の効果が卓越することが知られており、両者は似ているものの確かに異なる過程を経て形成されると予想されている。この研究をさらに進め、初代星形成と銀河系の大質量星形成をつなぐ低金属の環境下で大質量星形成がいかに進むか、さらにこのときどのような観測的特徴を伴うか、を明らかにする。まず、理想的な初期条件から初めていくつかパラメータ依存性をsystematicに調べ、さらにそれと合わせて宇宙論的シミュレーションから得られた低金属ガス雲でも進化を計算する。 この大質量星形成の研究と並行して、これまでに進めた原始惑星系円盤の蒸発問題、さらに種ブラックホールへのガス降着問題の研究も進める。特に、金属量依存性をひとつの共通軸とし、初期宇宙で実現すると考えられる低金属量環境での天体形成理論の確立と将来観測による検証に備える。
|