研究課題/領域番号 |
16H05998
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
富田 賢吾 大阪大学, 理学研究科, 助教 (70772367)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 理論天文学 / 星形成 / 宇宙物理学 |
研究実績の概要 |
本研究は分子雲スケールから原始星・原始惑星系円盤スケールに至る星形成過程を多数の物理過程を含む現実的なマルチスケールシミュレーションで明らかにすることを目指している。数値シミュレーションには米国プリンストン大学と共同で開発している公開時期流体シミュレーションコードAthena++を利用している。 今年度は主にコードの開発を行った。まずオーム散逸と双極性拡散という二つの非理想MHD効果をAthena++に実装した。星形成を起こす分子雲は高密度かつ低温のため電離度が低く、これらの非理想MHD効果が重要であることが知られている。コードのテストを兼ねて星間ガスの熱構造を行った。乱流状態にある星間ガスでは衝撃波による加熱と輻射による冷却で温度構造が決まるが。双極性拡散を考慮すると衝撃波の構造が変化するため熱構造に影響すると期待されるが、実際には輻射冷却の効果が強いため温度分布は大きくは変化しないことがわかった。 また、自己重力のポアソン方程式を解くポアソンソルバの開発を行った。大規模並列計算機上で正確かつ効率よく計算を行うために手法の検討を行い、Full MultiGrid Cycleに基づくMultigrid法の実装を開始した。まだ実装途中であるが、来年度前半には開発を完了できると見込んでいる。 更に星・円盤形成過程を調べるため分子雲の収縮から星周円盤が形成される過程の長時間シミュレーションを行った。星周円盤の形成と進化においては角運動量輸送が重要であるが、シミュレーションにより初期には磁場による角運動量輸送が支配的であるが、後期に進むにつれて円盤質量が増加するために重力不安定により渦状腕が形成され、これによる重力トルクが支配的となることが分かった。この結果を観測と比較し、最近ALMAによって発見された渦状腕を持つ天体Elias2-27の性質を整合的に説明できることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は主にシミュレーションコードの開発に注力した。非理想MHD効果の実装は予定通り終了し、自己重力の実装もおおむね予定通りのペースで進んでいる。また星周円盤の形成過程の長時間シミュレーションによる研究で構築した理論モデルは観測を非常によく説明することができ、星・円盤形成過程の理解に大きく貢献したと考えている。総じて順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
来年度はまず自己重力のポアソンソルバの開発を最優先で進める。開発が完了次第、乱流状態にある分子雲の数値シミュレーションを行い、乱流中で形成される分子雲コアの質量や回転、磁場強度などの分布を統計的に調べる。これらは小スケールの星形成過程の初期条件・境界条件に対応しているため今後の研究に重要である。また電波望遠鏡により観測できる量のため、これらを用いて理論モデルの妥当性を観測結果をもとに検証する。
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