本研究では、星形成銀河の内部を空間分解し、星形成領域からのアウトフローを検出する事で、ガスの流出入を見積もり、星形成活動におけるフィードバック過程について制限を与えることを目的とし、すばる望遠鏡の補償光学装置(AO188)、及び近赤外線撮像分光装置(IRCS)に取り付けるための多天体スリットモジュールを開発した。 多天体スリットモジュールは、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)を用いて、任意の星形成銀河について、内部の星形成領域の位置に合わせてスリット形状を作るものである。多天体スリットモジュールは、前年度までに製作を完了し、性能評価を行っていたが、DMDを保護するウィンドウの影響により、非点収差が出てしまう問題があった。 今年度は、この収差の問題を解決するべく、多天体スリットモジュールの光学系に修正を加え、性能評価を再度行った結果、想定通りの光学性能を達成できる事を確認した。その後、多天体スリットモジュールは、すばる望遠鏡に搭載するべく、国立天文台ハワイ観測所へ輸送した。令和元年度は、すばる望遠鏡のIRCS+AO188に多天体スリットモジュールを搭載し、人工光源による性能評価、及び試験観測として近傍の星形成銀河を観測し、星形成クランプからのアウトフロー成分を検出する事までを目的としていたが、昨年度末に発生したコロナウィルスの影響により、装置をすばる望遠鏡山頂施設へ輸送する事ができなくなり、当初の目的を達成する事はできなかった。 その他、多天体スリットモジュールによる観測的研究の遂行のための準備として、近傍の星形成銀河の高解像度狭帯域撮像観測のデータをもとに、銀河内部の星形成領域からのPaα輝線の検出可能性についての検討を行った。また、赤方偏移2の星形成銀河内部の星形成領域の空間分布に関する共同研究を進め、論文を出版した。
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