研究課題/領域番号 |
16H06002
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
山崎 剛 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (00511437)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 素粒子論 / 格子QCD / 数値計算 |
研究実績の概要 |
強い相互作用はクォーク・グルーオンをハドロンに閉じ込めるだけでなく、陽子・中性子(核子)が原子核内に束縛される核力の起源でもある。この強い相互作用の特徴であるクォーク・グルーオンから核子、そして原子核という階層構造を統一的に扱い、第一原理計算である格子量子色力学計算から原子核の性質を定量的に理解することが本研究の最終目標である。この目標に向かい、(1)現実的クォーク質量での軽原子核計算、(2)原子核直接計算の信頼性の検証、(3)ハドロン形状因子の計算の研究を行った。 (1)では、軽原子核束縛エネルギーを再現できるかの検証を目的とした。その目的のため、これまでの軽原子核束縛エネルギー計算の主要な系統誤差と考えられる、現実よりも大きなクォーク質量からの系統誤差を抑えた計算を行った。この計算は現実に近いクォーク質量の計算であるため、統計揺らぎを抑えることが非常に難しく、平成28年度末までに統計的に有意な結果は得られなかった。今後もこの計算を継続していく予定である。(2)では、クォーク質量以外の系統誤差、特に励起状態の寄与について調査を行った。束縛エネルギー計算に要求される条件を満たすように計算を実行した。その結果、二核子原子核系では、二つの異なる演算子から得られた束縛エネルギーが一致したことから、正しい計算を行えば励起状態の寄与は非常に小さいと考えられる。(3)では、パイ中間子と核子について、内部構造に関係する形状因子を、現実に近いクォーク質量で計算を行い、それぞれの計算で実験値を再現するような結果が得られた。 (1)、(2)、(3)の研究成果は、格子量子色力学の国際会議Lattice2016や、その他の国際会議、国内研究会で報告し、関連研究分野の研究者へ成果を公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で説明した(1)、(2)、(3)の研究についての進捗状況をまとめる。 (1)現実的なクォーク質量でのヘリウム4以下の軽原子核について計算を行った。この計算は以前からの継続計算で、本研究課題が始まる前までに、約3万8千測定の計算を終了していた。平成28年度はこの計算を継続し、約2倍の約6万4千測定にした。しかし、クォーク質量が非常に小さいことから来る統計揺らぎを抑えるためには、まだ統計が十分ではないため、今後も継続計算を行っていく。 (2)これまでの軽原子核束縛エネルギー計算に含まれていた可能性のある、励起状態の寄与による系統誤差を調べるため、二つの演算子を用いた二核子原子核束縛エネルギーの計算を行った。束縛エネルギーを相関関数から求める際に満たすべき条件に注意し、相関関数の時間領域を選択した結果、二つの演算子から得られた結果は一致した。この結果から、これまで行ってきたように正しい計算を行えば、励起状態の寄与は十分抑えられると考えられる。二核子散乱状態である励起状態の寄与は、体積に強く依存すると考えられるので、体積を変えた計算を行う予定である。 (3)本研究課題を申請した際は、ハドロン構造に関係する計算としてパイ中間子形状因子のみを計算を計画していたが、それに加え核子形状因子も実行した。現実に近いクォーク質量と一辺が8.1fmの体積を用いた各形状因子の計算は順調に進み、現在成果をまとめている段階である。
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今後の研究の推進方策 |
進捗状況で説明した(1)、(2)、(3)の研究についての今後の研究方針をまとめる。 (1)これまでに約6万4千測定の計算が終了したので、今後はこの統計を約2倍にすることを目標とする。現実に近いクォーク質量を用いた計算は統計誤差を抑えることが非常に難しいので、ヘリウム4の束縛エネルギーについて、統計的に有意な結果を得ることは本研究課題期間内には難しい可能性がある。そこで、二核子系計算に専念し、この系で統計的に有意な結果を得ることを第一目標とする。その後、ヘリウム3についての結果を得る計算を進める。 (2)励起状態の寄与について、さらに理解を深めるため、体積を変化させた計算を行う。また、異なる演算子を用いた計算だけでなく、より信頼性の高い、対角化を用いた解析方法から得られた結果との比較も行う予定である。これらの計算と同時に、これまでの計算より信頼性の高い新しい計算方法の開発も試みる。 (3)パイ中間子形状因子と核子形状因子の計算は、現実的なクォーク質量を用いた一辺が8.1fmの体積での計算が終了している。今後は、体積を大きくした一辺10fm、現実的なクォーク質量を用いた計算を行い、これまでよりも精度の高い結果を求めることを目標にする。
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