研究実績の概要 |
本研究の目的は、可搬型の放射線検出器による日本海沿岸の冬季雷雲のマッピング観測を実現することで、雷雲内の強電場領域で発生する電子加速の物理過程を解明することである。これまでに、Raspberry Pi で駆動できる FPGA-ADC ボードの開発を初年度に行い、次年度には金沢、小松、柏崎など北陸沿岸の多地点に放射線測定器を設置することができた。2017年度では、柏崎に設置していた複数の放射線検出器が落雷に伴って強力な放射線を検出した。この詳しい解析により、雷放電に伴うガンマ線により大気中で光核反応が起きていることが明らかになった(Enoto, Wada et al., 2017, Nature)。これは、落雷に伴うミリ秒スケールの放射線の到来(下向きの Terrestiral Gamma-ray Flash と考えられる)、光核反応で発生した中性子が大気中で吸収された際の即発ガンマ線、同じく生成される窒素の放射性同位体がベータ崩壊する際の陽電子、という3つの観測的証拠により確立したものである。この結果は、雷が原子物理だけでなく、原子核物理をも引き起こすことを明らかにしたものである。日本国内の主要新聞はもとより、世界中の新聞などで報道された。さらに、この発見で中性子の測定が重要であることがわかったため、中性子に感度のあるシンチレータを使った、バッテリー駆動の測定装置も用意し、ロケット誘雷実験なども行うことができた。データは解析中である。これらに加えて、ボタン一つでデータ取得が可能で、市民科学者に配布できるような可搬型の放射線検出器の開発も進めている。まさに「雷雲と雷の高エネルギー大気物理学」という新しい分野が誕生しつつある。これらをもとに、3月には地球物理から宇宙線物理まで幅広い分野のメンバーを集めた研究会を宇宙線研究所で開催した。
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