本課題「エニオン統計性を有する分数電荷準粒子の2粒子衝突実験」の目的は、分数量子ホール系の素励起である分数電荷準粒子のエニオン統計性を実験的に検証することである。強磁場中の半導体2次元電子系において分数電荷準粒子の衝突実験を実現することで、この目的の達成を目指す。 この目的達成のためにはさまざまなアプローチの方法が考えられる。本課題では、占有率の異なる複数の量子ホール系の接合を作製し、その接合部分の構造をデザインすることによって目的の達成が可能になると着想し、取り組みを開始した。2019年度は、第一に、昨年度までに得られていた占有率2の量子ホール系中に局所的に形成される占有率1量子ホール系のスピン状態についての実験結果をまとめ、論文として出版した。第二に、昨年度より取り組んでいる、占有率1/3と1の分数・整数量子ホール接合におけるエッジ状態の内部構造解明の実験を推進した。実験およびその解釈の両面で理解が十分に進んだため、論文にまとめる予定である。第三に、分数・整数量子ホール接合における分数電荷準粒子のアンドレーエフ反射を実験的に観測することに成功した。この現象は1990年代より理論的に研究されてきたもので、本研究によって初めて観測がなされた。この成果は近日中に論文を投稿する予定である。 そのほか、準粒子の衝突実験に不可欠な電流ゆらぎ測定系、および複数電流の相関測定系について、それぞれ自作の高電子移動度トランジスタを利用した高性能測定系の作製に成功した。これらについても、それぞれ論文としてまとめて公表することを予定している。
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