研究課題
本研究では、探針増強電場と高強度テラヘルツ電場を利用して、物質の状態を超高速、かつナノスケールに制御、観測することで構造変化のダイナミクスを明らかにすることを目指している。そのために、平成28年度は、大気中の走査型トンネル顕微鏡にテラヘルツ波を照射すると共に誘起されるトンネル電流を計測した。短パルスレーザーを用いて発生させたテラヘルツ波は非常に広帯域であることから光の位相によってトンネル電流の向きが大きく変わる。このことを実際に実験を通して明らかにし、トンネル電流の向きが実際にテラヘルツ波の位相によって自在に制御できることを見出した。トンネル電流の流れる向きはトンネル効果を扱うSimmonsモデルによって良く記述され、1パルスあたり数万個の電子がトンネルしていることもわかった。さらに、探針試料間は非常に狭いため100000にも及ぶ電場増強効果が発生し、電場強度を上げると、最大で1nmあたり16Vという巨大な電圧が誘起できていることが分かった。これらの結果は論文にまとめて発表した。さらにこれらの結果を超高速ダイナミクスの測定に応用するために、系をダブルパルスとして、トンネル電流の相関波形をとる系を作成した。その際にポンプパルスを単一のパルスとしナノスケールの加工が超高速で誘起できることや、半導体においてはトンネル電流の向きが電場強度によって変化することなどを明らかにしている。現在はこれらの結果を論文化すべく取り組んでいるところである。
2: おおむね順調に進展している
本年は探針増強テラヘルツ電場を用いた物性研究をおこなうために、テラヘルツSTM装置を立ち上げ、ダイナミクス測定が可能で、かつCEP制御可能な測定系を構築し、大気中で基礎的知見を取得することを目標に研究を行った。その結果当初の計画通り、テラヘルツパルスの位相を変えながらトンネル電流を計測することに成功している。特に、電場波形がSinであるか、Cosであるかによってどのような違いが現れるかについて、実験、理論の両面から解明できたことは重要である。また、電場強度がナノギャップにおいて非常に増強され、16V/nmにも達する電場強度を実現できたことは注目に値する。さらに、新しく購入したSTM装置を立ち上げ、その系にダブルパルスの光学系を組み込めたように本研究を推進する準備を十分に整えることができた点も重要である。
今後は、構築した実験系をベースに半導体や半金属、分子系等、様々な物質系におけるテラヘルツSTM研究を展開し、ナノスケールの超高速ダイナミクスを明らかにしていくことを目指す。また、実験系においては、超高真空下の実験を行うことを目指して、チャンバーの設計及び製作を行い、真空下で安定した実験が行えるように注力する。具体的には、大気中でも安定して表面構造を得ることができる二硫化モリブデンや、セレン化タングステン等を対象に高強度テラヘルツ波を照射し、誘起されるトンネル電流を計測することで、半導体における強電場下の物理を明らかにする。さらに、時間領域のダイナミクス情報から超高速のキャリアに関する情報を得ることを目指す。
すべて 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 7件) 備考 (2件)
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