研究課題/領域番号 |
16H06010
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
片山 郁文 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 准教授 (80432532)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | テラヘルツ / STM / 超高速 / 電子トンネリング / 近接場 |
研究実績の概要 |
本研究は、金属の探針による局所的な電場増強効果を利用して、電子のトンネリングを制御し、それによって固体物質の構造を制御することを目指したものである。本年度は、より進んだ位相制御手法を実証するために、新たにテラヘルツ領域の広帯域位相シフタ―を導入し、それを用いてテラヘルツ局所電場の制御と評価を行う手法を確立した。導入した位相シフターはテラヘルツパルスの包絡線に対する搬送波の位相を連続的に変化させることが可能である。この位相シフターで波形を制御したテラヘルツ波を、昨年度までに導入した走査型トンネル顕微鏡装置に照射したところ、トンネル電流量が用いる探針によって大きく変化することを見出した。また、電場波形の数値計算によって、探針のマイクロメートル領域の形状が位相に大きく影響していることを見出し、これによってトンネル電流量が変化していると考えられることを明らかにした。これまでの研究では通常、探針のない遠方場でのテラヘルツ電場波形を用いてトンネル電流を解析してたが、今回の結果はこれが誤りであることを示している。実際には、探針の形状が局所場の位相を大きく変化させるため、用いる探針の特性を把握しておくことが極めて重要となる。また、今回の位相シフターを用いた手法によって、局所場の位相を評価可能であることが分かった。 また、並行してテラヘルツ走査型トンネル顕微鏡を用いたイメージング技術の構築も目指した。その結果、グラファイト上の金ナノ構造において極めて高いバイアス電圧におけるイメージング画像の取得に成功した。この結果は、テラヘルツ波が仕事関数など、高バイアスが必要な物理量のイメージングに有効であることを示唆する結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は主に構築したテラヘルツ走査型トンネル顕微鏡の高真空化とイメージング応用の実証を目指して研究を進めていた。真空化することは精度の良いイメージングを行い、電子状態などの分光を行う上で極めて重要であるが、順調に導入が完了し、今後真空下での実験を遂行可能となっている。また、その過程で、当初予想していなかった、近接場と遠方場の位相の違いを始めて明らかにすることができた点は、当初の計画以上に進展しているといえる。この位相差は、テラヘルツ波を用いた物性や構造の制御においては重要な役割を担うため、この時点で明らかにできたことは特筆に値する。今後これらの知見をもとに、テラヘルツSTMを用いた構造制御の研究を進める。また、テラヘルツSTMを用いたイメージング研究では、高いバイアスでのイメージングが可能であることを明らかにし、それが仕事関数の違いに起因して起こっていることを始めて見出した。テラヘルツ波で初めて見える物理の一つを明らかにできたという意味で、これも重要であり、計画以上の進展であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでに構築した超高真空テラヘルツ走査型トンネル顕微鏡を利用して、構造の制御とそのダイナミクス解明を目指した研究を行う。そのために、光および電場によって相変化が起こる、Ge2Sb2Te5における相変化を、光およびテラヘルツ電場によって引き起こし、そのダイナミクスを調べると共にイメージングを行う研究を進める。これによって、本研究の目的である、探針増強電場による構造制御を実現できるのではないかと考えている。また、新たな研究対象として、分子系やカーボンナノチューブ、トポロジカル絶縁体等の測定を進め、テラヘルツSTMを用いた研究の幅を広げる取り組みを進めたいと考えている。
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