研究課題
本研究は、物質のナノスケールでの構造変化を、テラヘルツパルスを用いて超高速で誘起・制御することを目指している。平成18年度は、①超高真空走査型トンネル顕微鏡(STM)装置にテラヘルツ波導入用のレンズを設置した、②ナノスケールのテラヘルツ局所場の波形を明らかにする手法を開発した、③光相変化材料の表面原子像の相変化による変化を可視化した、という3つの成果が主に得られた。①に関しては昨年度より超高真空テラヘルツSTM装置を構築していたが、本年度においてようやくテラヘルツ波の導入が可能となり、テラヘルツ波照射による構造や物性の変化を検出する素地を作ることができた。これまでの大気中の測定では、気流や音の影響でどうしても探針が不安定となり、ノイズの少ない測定を実現することが難しかったが、これによって、高い信号雑音比で安定したイメージングが可能となった。②では、新たに高度なテラヘルツ波形整形技術として、光の絶対位相を制御する技術を導入し、それによるトンネル電流の変化量を計測することで、局所場の位相を明確に示すことに成功した。この結果は、論文として公表し。これまで、テラヘルツSTMの研究では、遠方場の波形をそのまま局所場の波形とみなして計算等を行うことが多かったが、それが誤りであることを示した初めての研究である。③に関しては、光相変化材料を水中に液浸するという方法で、原子像を見ることができることを明らかにした。また、ここに光照射をすることで、原子像や電子状態がどのように変化するのかを明らかにした。ナノスケールで光相変化を見た研究はこれまでになく、今後解析を進め、論文として公表したいと考えている。今後は、上記の成果を組み合わせ、テラヘルツ波によるナノスケール構造制御を実証する研究を進めていく。
2: おおむね順調に進展している
探針増強テラヘルツ電場による物質の制御を行うにあたり、超高真空のテラヘルツSTM装置を構築できたことは重要な進展である。特に、超高真空中に可動式のテラヘルツ集光レンズを導入することで、可視光の励起やテラヘルツ波の励起等が新たに行えるようになった。また、真空STMの周辺を整備し、試料の過熱を行ったり、グラファイトはもちろんのこと、様々な物質系において原子像を得ることができるようになってきたことは、今後、テラヘルツ波による物質制御を行う上で有用であると考えられる。また、この系を利用して、光相変化材料であるGe2Sb2Te5における表面原子像を可視化するとともに、光励起による相変化を確認できたことも、今後に向けて重要な進展であるといえる。一方で、レーザーやSTM装置の故障などもあり、当初の目的であるテラヘルツ波による物質励起が進まなかった点は、本年度に大きく進める必要がある。測定装置は十分に整ってきたので、今後テラヘルツ波の励起による相変化を調べるなどの研究を精力的に進めていく必要がある。
昨年度に確立した超高真空テラヘルツ走査型トンネル顕微鏡装置を中心に、様々な物質系においてテラヘルツ波励起、光励起、及びそれらの強励起を利用したダイナミクス研究を行う。そのために、テラヘルツ波発生の光学系を構築し、励起テラヘルツ波をダブルパルスにするなど、ダイナミクスを測定するための工夫を行う。また、超高速の表面ダイナミクスをノイズを避けつつ効率的に測定するための変調方式を確立するために、必要な回路系も早期に構築する。これらの改良を踏まえて、本年度後半には構築した測定系を用いて光相変化材料のGe2Sb2Te5やトポロジカル絶縁体であるBiTeI等の物質系におけるテラヘルツSTM実験を行う。これによって、光相変化のナノスケール分光や、トポロジカル表面状態のテラヘルツ変調などを実証する研究を進める。これらを通して電子トンネリングによる物質の電子状態・構造の制御と、そのダイナミクス解明を目指した研究を進める。
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