本研究では、半金属的Fermiを持ち、Weyl粒子と従来電子が共存すると考えられる新しいタイプのWeyl半金属(タイプII Weyl半金属)の電子状態を解明する。具体的には、走査トンネル分光イメージング測定を用いて、β-MoTe2がタイプIIのWeyl半金属であることを確認する。特に、準粒子干渉パターンの精密測定・解析を通して、タイプIIのWeyl半金属の電子状態の特徴を明らかにする。 本年度は、昨年度に引き続きβ-MoTe2の走査トンネル分光イメージング測定を行った。特に、準粒子干渉パターンの精密測定・解析から、電子状態の詳細を解明することを試みた。準粒子干渉は、不純物等によって電子波が散乱干渉を起こすために生じる定在波の一種であり、電子状態の自由度などに関する多彩な情報を有する。β-MoTe2においては、極性構造に起因する2種類の表面とそれぞれで異なる準粒子干渉パターンが観測され、また、Fermi準位よりもエネルギーが高い非占有状態側で特に複雑なパターンが観測される。それゆえ、角度分解光電子分光結果と物理的直観に基づく従来型の解析法では限界があり、第一原理計算結果に基づく準粒子干渉計算手法を開発した。この手法は、第一原理計算結果に対し、強結合模型を用いたフィットを行って得た固有値と固有ベクトルを元に準粒子干渉計算を行うものである。開発過程において他のいくつかの物質においては実験結果をよく再現する結果を得たが、β-MoTe2においては部分的な再現に留まった。第一原理計算の結果が部分的に観測値と異なっており、その影響を受けたものである。観測値と計算値の差異を補正することで、より精度の高い再現が可能になり、それにより電子状態の詳細が抽出可能になると考えている。
|