研究課題
まず本年度は、多層ディラック電子系の熱電現象の解明を目指し、キャリア濃度を系統的に制御したEuMnBi2単結晶において、ゼーベック係数とネルンスト係数の測定を行った。この結果、2つの熱電係数のキャリア濃度依存性が大きく異なることを見出した。ゼーベック係数の温度依存性はキャリア濃度にほぼ依らず100-150 Kで最大値を取る。この最大値は、p型の母物質からキャリア濃度を減少させると一旦上昇し、その後急激に減少する。この様な振る舞いは、第一原理計算の結果と半定量的に一致し、元素置換による物質設計および熱電性能の最適化が可能であることを実証した。一方、ネルンスト係数はキャリア数の減少に伴い単調に増加(母物質の約5倍まで上昇)することが明らかとなった。この特異な変化は、ディラック電子系の半古典理論(モットの式)でほぼ理解できる。この理論に基づく表式では、ネルンスト係数のピーク値は u/E_F(u:移動度、E_F:フェルミエネルギー)に比例するため、実験結果の傾向と合致する。通常の放物線バンドの系では、E_Fがバンド端に近づくと移動度が低下してしまうが、ディラク電子系ではバンド端でも移動度が落ちない(フィット結果ではむしろ上昇する)ため、 ネルンスト係数が大幅に増大したと推察される。さらに従来の反強磁性と異なり、Mnスピンの面内キャントにより弱強磁性となるBaMnX2 (X=Sb, Bi) の量子輸送特性の詳細解明を目指し、(回転)強磁場中において電気伝導測定を行った。この結果、前年度に純良化に成功していたp型BaMnSb2において、ホール抵抗率が明瞭なプラトーを示し、同時に層間伝導度がほぼ消失する(1000分の1以下)振る舞いを見出し、バルク半整数量子ホール効果の観測に成功した。量子化したホール抵抗率を解析した結果、ディラック電子のバレー・スピン分裂などの強相関効果が示唆された。
平成30年度が最終年度であるため、記入しない。
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