研究課題/領域番号 |
16H06016
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
相川 清隆 東京工業大学, 理学院, 准教授 (10759450)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ナノ粒子 / オプトメカニクス |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ナノサイズの試料を真空中に浮かべてその内部の物性を探究する、これまでにない物性実験手法を創出することである。特に、多くの物性実験で用いられる希釈冷凍機では到達不可能な超低温(絶対零度1mK以下)へと試料の温度を冷却する技術を開発することを目標とする。この目標に向け、本研究ではナノ粒子同士の衝突を利用する新たな冷却機構の実現を目指す。冷却の要となる2粒子間の超低速における衝突ダイナミクスを明らかにすると共に、粒子間の付着という冷却の弊害になり得る現象を双極子相互作用を利用して防ぎながら冷却を行う技術を開発する。 平成28年度は、ナノ粒子の重心運動の冷却に関して研究を進め、ナノ粒子を真空中でレーザー捕捉する装置を製作すると共に、光格子に捕捉されたナノ粒子の重心運動を10K程度にまで冷却する技術を確立した。先行研究では、単一ビームに捕捉したナノ粒子の重心運動の冷却が報告されているが、光格子中における重心運動の冷却は、本研究が初めてである。光格子の特長は、単一ビームと異なり、複数粒子を同時に捕捉できる点にあるため、今回確立した冷却技術は、今後の複数粒子を用いた研究の中核をなすものである。 この研究を進める中で、高真空下でのナノ粒子の振動の様子を表すパワースペクトル密度の線幅から直接ナノ粒子の感じる光ポテンシャルの深さを測定できることを見出し、論文として発表した。これは光との相互作用を利用してナノ粒子の大きさを測定することに相当し、本研究を進める上で重要な成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、ナノ粒子同士の超低速での衝突ダイナミクスを探ることを主な目的としている。このためには、2個のレーザー捕捉されたナノ粒子の重心運動を充分低温まで冷却する技術が不可欠となる。そこで、まずナノ粒子の3次元的な重心運動を冷却する技術の確立を行った。具体的には、ナノ粒子を捕捉する光学系・真空系の製作、ナノ粒子の運動を観測する光検出器の開発、および得られた信号を処理する電子回路系からなる。特に電子回路系に対する最適化を行った結果、3方向全てに対して常温から10K程度まで冷却する技術を確立できた。 なお、本来予定にはなかった成果として、高真空下でのナノ粒子のパワースペクトル密度の線幅に関する考察を論文として出版した。通常、ナノ粒子のパワースペクトル密度の幅は真空度のみで決まるものとされてきたが、本研究を進める中で、高真空下では線幅が方向に依存する一定値をとることを見出した。この振る舞いは、ナノ粒子の三次元的な運動およびポテンシャルの非調和性に基づく振動の非線形性が原因であることを突き止め、線幅からナノ粒子の感じる光ポテンシャルの深さが直接推定できることを示した。この実験的・理論的研究のために、当初の計画よりも研究の進行が遅れた。
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今後の研究の推進方策 |
ナノ粒子の重心運動の冷却技術をさらに発展させ、重心運動の温度として1K程度以下まで冷却できる技術を確立したいと考えている。この技術を足がかりとし、ナノ粒子の衝突ダイナミクスを探る実験を、様々なナノ粒子の速度において行う予定である。多くの粒子に対するデータを収集することで、ナノ粒子同士の衝突の際に重心運動がどのように変化するか、という一般性の高い疑問への答えが得られると考えている。 また、ナノ粒子の内部状態を、分光によって観測する試みに取り組む。ナノ粒子から放出される光は弱いため、感度の高い実験系の構築を想定している。 衝突に際して粒子同士の付着が問題になる場合には、粒子同士の付着を防ぐメカニズムが必要となると考えられる。このためには、ナノ粒子間の相互作用の理解や制御が本質的に重要となることから、このような観点での研究を計算・実験の両面から進めていく予定である。
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