本研究の目的は、ナノサイズの試料を真空中に浮かべてその内部の物性を探究する、これまでにない物性実験手法を創出することである。特に、多くの物性実験で用いられる希釈冷凍機では到達不可能な超低温(絶対零度1mK以下)へと試料の温度を冷却する技術を開発することを目標とする。この目標に向け、本研究ではナノ粒子同士の衝突を利用する新たな冷却機構の実現を目指す。 平成30年度は、帯電したナノ粒子の価数の制御や電場への応答を中心に研究を進めた。その中で、ナノ粒子の帯電価数が大きいことを活用し、粒子の重心運動の観測結果に応じて時間変化する電場をかけることで粒子の重心運動を冷却する、という新たな冷却手法の開発に成功した。従来、ナノ粒子の重心運動の冷却には、粒子の重心運動の観測結果に応じて、捕捉レーザー光の強度を変調する手法が実証されてきており、多くのグループが利用してきたが、この手法による冷却能力は、重心運動の温度に比例するため、重心運動が充分に低温となると、冷却がうまく働かなくなる、という問題があった。一方、我々が今回実証した電場による冷却手法の冷却能力は、粒子の重心運動の温度とは関係ないため、従来手法よりはるかに低い温度まで、ナノ粒子の重心運動を冷却できると期待される。 一方、粒子の衝突ダイナミクス追究に関わるナノ粒子の帯電価数の制御を試みた結果、価数を真空下である程度変化させることができ、変化した後の価数を充分長く維持できることがわかった。このため、将来的には中性、もしくは価数が1程度のナノ粒子を用いて、衝突ダイナミクスを探る実験が可能であるとの展望を得た。
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