研究課題/領域番号 |
16H06018
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
川崎 猛史 名古屋大学, 理学研究科, 助教 (10760978)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ソフトマター物理 / レオロジー / ジャミング転移 |
研究実績の概要 |
本年度は主に以下の研究成果が得られた. (i)高密度粒子分散系の振動解析に関する新手法の開発:アモルファス状態にある高密度粒子系の低周波振動特性は,ガラス転移やジャミング転移の物理の根幹と深く関係している.しかし,基本的な解析手法である基準振動解析などの計算コストの問題があり,理解が不十分である.一方,我々は,粒子直径が周期的に変動させた高密度粒子系における弾性応答について調べた結果,粒径振動の周波数に応じて,得られる各粒子の変位場の応答が,基準振動解析で得られる振動モードの固有ベクトルと高い相関をもつことが分かった.今回の測定は,通常の分子動力学法をごく短時間解くだけで済むため計算コストが抑えられる.このため,非常に大きな系での振動特性の計算が可能となり,アモルファス系特有の低周波数領域における局在モード等の理解に繋がることが期待される[Soft Matter誌に掲載]. (ii)高密度分散系の粒子軌道に関する新しいタイプの非平衡相転移の発見:周期剪断下にある粒子系に対する剪断振幅を増大させると,粒子軌道は可逆軌道から不可逆軌道へと変化する.特に希薄な系の場合,不可逆軌道を示す粒子数は剪断振幅に対して臨界点を境に連続的に増大する非平衡相転移(吸収状態転移の一種)が発見されている.ところが,高密度系での振舞いは余り理解されていなかった.我々は高密度系での上記問題を分子動力学法により取り組んだ結果,降伏現象を起源とする,不連続型の吸収状態転移を発見した[Phys. Rev. E誌に掲載]. (iii)変形可能な超粒子の流動特性:ソフトマターのガラス転移やレオロジー対する粒子変形の寄与は殆ど理解されていない.本年度は,粒子形状に自由度をもつ超粒子の高密度分散系に剪断流をかけた際の流動特性について調べた結果,粒子形状の変化に伴う非等方的な粒子構造に起因した非線形な流動特性が得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,変形可能な超粒子分散系のガラス転移や流動特性について研究計画を立てた.これらについては,剪断流動に伴い,強い非線形性を伴う流動特性が得られている.更にこれらの関連研究として(i)自己駆動する粒子を用いた高密度分散系(アモルファス系)の振動特性,(ii)高密度分散系の粒子軌道に関する非平衡相転移について重要な結果が得られた為,これらの関連研究についても本年度は時間を割いた.(i)の研究に関しては,周期的に弱く自己駆動する粒子(ある種のアクティブマター)を用いることにより,計算コストを大幅に抑え,アモルファス特有の低周波数領域における局在モード等の理解に繋がる革新的な計算手法の構築に成功している.さらに,今回用いた条件では,弱く自己駆動するアクティブな粒子から得られるジャミング系の振動物性とパッシブな粒子で得られるジャミング系の振動物性との高い類似性が得られたものであり,物理的新規性も高い.当初の研究計画では次年度以降アクティブマター粘弾性特性について調べる計画を立てたが,本年度は,これを一部先取りした形になっている.また,(ii)の研究では柔らかい粒子の高密度分散系に振動剪断をかけた際の粒子軌道に関する新しいタイプの可逆・不可逆転移(不連続型の吸収状態転移)を発見するに至っている.この転移はジャミング転移に伴う剛性の発生や降伏現象と関係が深いことが明らかとなっており,非平衡相転移やアモルファス材料の研究分野への学際的波及効果の高い研究成果となっている. 従って,当初の研究計画以外の関連研究についても多くの時間を割いたが,得られた研究成果((i)(ii)の研究は,それぞれSoft Matter誌,Phys. Rev. E誌に掲載済)を鑑みて,研究進捗は,おおむね順調であると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き、超粒子分散系における非線形流動現象について進める.特に,この様な粒子の高密度分散系で観測されるジャミング転移において,粒子の変形効果がどのように効いてくるかについて詳しく調べたい.また,これ以外にも,現在まで研究実績・研究進捗状況において説明した通り,(i)自己駆動する粒子の振動特性や(ii)高密度分散系の粒子軌道に関する可逆・不可逆転移(吸収状態転移)に関する研究においても引き続き重要な知見が得られることが期待できるため,これらについても研究を進めたい.(i)の研究では,特に高密度分散系における,低周波(長波長)領域における振動特性について本手法を用いて幅広く調べたい.(ii)の研究では,粒子密度を変化させた際の,粒子軌道に関する可逆不可逆転移について網羅的に調べたい.特に,前年度までの研究では,ジャミング転移点以上の高密度領域においては,剛性の発現・降伏現象に起因する不連続型の吸収状態転移を発見している.この様な剛性の発現は,ジャミング転移と大に関係しているため,ジャミング転移を跨ぐようにして密度を変化させた際の振る舞いを調べることは重要である.先行研究では,密度の薄いコロイド分散系では,連続型の吸収状態転移が見いだされており,またその臨界指数は,Directed Percolation(DP)型であることが示唆されている.本年度は,この様な粒子軌道に関する非平衡相転移が,不連続型から連続型への遷移,また連続型に関してはDPクラスに属するか等について議論したい.また,ジャミング転移点近傍については,系の粘弾性特性や上記の可逆・不可逆転移(吸収状態転移)との関係について詳しく調べたい.
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