近年の細胞温度計測技術の発展により、様々な細胞内局所の温度変化が明らかにされつつある。これらの知見は、「細胞は局所的な熱を発生し、それを有効活用している」という新たな視点を生命科学にもたらしている。しかしながら、この温度上昇は、従来の熱量測定の知見と単純化した熱伝導過程から導かれる理論値より数桁高い「異常な発熱」であることが、世界的な論争となっており、早急な解決が迫られている。そこで本研究は、細胞内局所の熱と温度をつなぐ物理学的基盤の構築を目的に、細胞内における熱伝導・発熱過程を捉え、細胞内局所の温度変化を理論的に推定可能にすることを目指す。
細胞内熱伝導過程は、これまで単純な線形方程式で記述されてきた。しかしながら、多種多様なタンパク質・構造物が高密度に存在する細胞内環境は、希薄な溶液とは異なる熱伝導を示す可能性が高い。したがって、単一細胞内熱伝導を実測することは、細胞内温度変化を予測するのに必須であり、異常発熱の原因解明に直結する。そこで研究初年度では、独自の顕微システム(世界初の細胞内熱伝導イメージングシステム)により、細胞内熱伝導の非線形性を評価し、それが細胞内局所の温度上昇の理論値に与える影響を考察した。 また、細胞サイズの微小空間における発熱量と温度の関係を明らかにするために、脂質2重膜で包まれた細胞サイズのリポソームにおいて、単純な発熱吸熱反応を起こした際の局所的な温度計測を行う実験系を構築した。
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