本研究は細胞内局所の熱と温度をつなぐ物理学的基盤の構築を目的に、細胞内における熱伝導・発熱過程を捉える顕微解析技術の開発を目指すものである。最終年度となる2018年度では、昨年度に引き続き、生きた単一細胞を対象とした細胞内温度計測と細胞外からの非侵襲温度計測を遂行し、薬剤刺激による細胞発熱過程において形成される細胞内外の温度勾配を明らかにした。また、これまで開発してきた細胞内熱伝導率マッピング法(赤外レーザー光を用いた局所光加熱時における温度分布から細胞内部の熱伝導率の不均一性を可視化する顕微解析法)に共焦点顕微システムを導入。生きた細胞の核内に赤外レーザー光を集光したときには、核は熱源(集光点)から同じ距離にある細胞質にくらべて顕著に温まり、両者間に大きな温度ギャップが形成されたことを示す温度変化マップ(実際には核内温度計色素の蛍光強度が細胞質内色素にくらべて顕著に減少するマップ)が得られた。各地点における温度勾配から熱伝導率を相対画像化した熱伝導率マップからは、核と細胞質の境界付近の熱伝導率が低い(断熱効果の高い物質が存在する)ことを示唆するデータが得られた。また、温度非感受性の蛍光色素(温度変化に対して蛍光強度が変化しない色素)を用いることで、局所加熱時における細胞変形の影響を評価した。生きた細胞とパラホルム固定した細胞では、加熱時の温度分布・熱伝導率マップの様子が異なるという興味深い結果も得られているものの、現時点のデータからはこれらが熱物性の違いを反映していると断定するには至らなかった。
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