研究課題
氷形成を誘発するエアロゾル粒子(氷晶核)の存在は、極微量であっても、地球の気候や生態系に多大な影響を及ぼす。北極圏の下層大気(約百m~数千mの高度)では、年間を通して混相雲(液体の雲粒と氷晶とが混在する雲)が頻繁に発生しているため、混相雲の存在は、極域の気候に多大な影響を与えている。混相雲内での氷形成過程には、氷晶核の存在が必須である。しかし、北極圏のようにエアロゾル粒子の数濃度が低いクリーンな環境では、氷晶核の数濃度も極めて低いため、その計測は技術的に非常に困難であり、観測例はほとんどない。また、北極圏における氷晶核の供給源についても、未だにわかっていない。そこで初年度は、申請者が新たに確立した「超低濃度状態でも氷晶核の計測が可能な実験系」であるCRAFT(Tobo, 2016 Sci. Rep.)を用いて、北極圏の中でも特に混相雲の発生頻度が高いとされるスバールバル諸島のニーオルスンにおいて、エアロゾル粒子の氷晶核としての役割に着目した調査研究を計2回実施した。夏季にあたる2016年7月には、ニーオルスンに約一週間滞在し、大気中のエアロゾル粒子などのサンプリングを行った。そして、国立極地研究所や気象研究所の設備を利用し、これらの試料の氷核活性(氷晶核としての能力)や化学組成などの分析に取り組んだ。さらに、冬季における氷晶核の挙動についての明らかにするため、2017年3月には、ニーオルスンにて約一か月間にわたる集中観測を実施した。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の予定通り、スバールバル諸島・ニーオルスンにて、夏季と冬季に集中観測を行うことを実施することができた。夏季(2016年7月)の集中観測時に採取した試料については、現時点で分析をほぼ完了しており、既に国際学会(極域科学シンポジウム)などでの研究発表を行ってきている。さらに今後、冬季(2017年3月)の集中観測時に採取した試料の分析を進めていくことによって、夏季と冬季における氷晶核の数濃度や供給源の違いが明らかになるものと見込んでいる。
まずは、2017年3月にニーオルスンより持ち帰った試料の分析を進めていく予定である。また、当初の計画では、年2回程度の集中観測のみを計画していたが、ニーオルスンのZeppelin山観測所(高度474 m)に自動でエアロゾル粒子を捕集できるサンプラーを設置し、今夏からは氷晶核の通年観測を開始することも視野に入れている。その他にも、北極圏の海洋大気中での氷晶核の挙動について明らかにするため、今夏に予定されているJAMSTECの海洋地球研究船「みらい」による北極航海時にも、サンプリングを行うことを計画している。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件) 備考 (3件)
Scientific Reports
巻: 6 ページ: 32930
10.1038/srep32930
Atmospheric Chemistry and Physics
巻: 16 ページ: 7195-7211
10.5194/acp-16-7195-2016
http://researchmap.jp/yutaka.tobo/
http://www.researcherid.com/rid/D-9158-2013
https://www.researchgate.net/profile/Yutaka_Tobo