研究実績の概要 |
昨年度に作成したシアノバクテリア石灰化実験の回収試料に対して,透過型電子顕微鏡および走査型透過X線顕微鏡による観察を行った.その結果,形成される炭酸カルシウムの特徴はシアノバクテリアの種類によって大きく異なっていることが明らかとなった.特にSpirulina, Phormidium, Scytonemaの周囲で形成された方解石には非晶質炭酸塩・多結晶(サブミクロンサイズ)・超構造などの特徴が見られ,酸性細胞外高分子上における非晶質炭酸塩ナノ粒子を介した核形成が示唆される.一方,上記3種類のシアノバクテリアに比べて細胞外高分子分泌量が非常に小さいLeptolyngbyaでは,そのような特徴はほとんど見られない.これらの結果から,シアノバクテリア表面において以下のような炭酸カルシウム形成過程が考えられる:1) 酸性細胞外高分子上で非晶質炭酸塩ナノ粒子が形成,2) 成長した非晶質炭酸塩粒子中で結晶化が進行し,サブミクロンサイズの方解石多結晶が形成,3) それらが単結晶方解石へと成長し,非晶質炭酸塩や方解石多結晶が部分的に残存する.これらの結果は,シアノバクテリア細胞外高分子の酸性度が堆積組織に差異を生む根本原因であるとした我々の前年度までの結論を支持するものであり,原生代―顕生代境界での微生物炭酸塩転換イベントの原因がシアノバクテリア群集組成の変化にある可能性が一段と高まった.この成果については,現在国際誌に論文を投稿準備中である. また,原生代末におけるシアノバクテリア鉱物化の別の例としてアパタイト化についても検討を行い,細胞外高分子よりも代謝による周辺水環境変化の影響が大きいことを明らかにした.この成果については,Sedimentary Geology誌に論文が掲載された.
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