研究課題
地球深部マントルにおける酸化還元状態を理解するための研究を行った。当初の計画どおり、初年度である本年度は技術開発を中心に計画を推進した。地球内部の高温高圧状態を再現するには、地球中心に相当する温度圧力を発生可能なレーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセルが広く用いられているが、近年レーザー加熱時に発生する温度の空間的不均質性や時間的不安定性が問題視されており、本計画ではそのような温度不均質を低減することを第一歩目の重要な課題としている。レーザー加熱法よりも格段に安定性の良い内部抵抗加熱式ダイヤモンドアンビルセルを改良することで、発生可能温度圧力領域を飛躍的に向上させることを目標として、本年度は研究を推進した。薄膜スパッタリング技術や、収束イオンビーム装置といったナノ技術を活用した結果、従来の圧力温度到達世界記録である約100万気圧、2600ケルビン(下部マントルの下部領域に相当)に比べて、2倍以上高い圧力温度を発生させることに成功した。この技術を応用し、地球核を形成する純鉄の融点を内核外核境界に相当する条件において決定した。本計画の対象である下部マントルからは対象がやや離れるものの、純鉄の相関係は地球内部酸化還元状態を知るうえで欠かせない根源的に重要な情報である。結果から、核の温度構造やマントル底部の温度をこれまでよりも高い信頼性で推定することができるようになった。さらに、当初の計画の計画に含まれているイリジウム、レニウム、プラチナ、鉄といった金属ヒーターに加え、半導体ダイヤモンドヒーターも50万気圧程度領域において実用化できた。これは当初の計画からすると予想外の飛躍的到達であり、得られた実験データを基に現在論文投稿準備を進めている。
1: 当初の計画以上に進展している
研究計画段階の予想を上回る技術的成功を達成した。「135万気圧領域における、これまでになく高い精度と高再現性を持った高温高圧発生技術」を研究目標の一つとして掲げていたが、計画を2倍以上上回る非常に高い温度圧力領域においてレーザーによらない、安定的な加熱に繰り返し成功した。この様な飛躍的達成は、計画していなかった新たな研究領域の開拓も期待できるものである。さらに、当初の計画の計画に含まれている金属ヒーターに加え、ヒーター内温度勾配がより小さい、半導体ダイヤモンドヒーターも50万気圧程度領域において実用化できた。研究成果としては、下部マントルにおいて酸化還元状態・鉄の価数状態が相関係、結晶構造とスピン状態に与える影響を明らかにし、国際誌に主著論文を2本発表することができた。より浅部を対象とする流体の電気伝導度測定に関する研究も、国際誌に主著論文として発表をした。主著共著を合わせると計7本の論文を国際誌に発表できた。初年度から比較的多くの業績を発表できており、計画以上に進展していると判断できる。
本年度開発を完了したシステムを用い、当初の計画を推進する。計画通りに様々な金属ヒーターを用いて酸化還元状態と下部マントル鉱物の相関係、物性の関係を調べる。X線回折測定を用いて高温高圧、高・低酸素雰囲気状態における安定相関係を決定するとともに、X線吸収分光法やメスバウアー分光法、あるいは透過型電子顕微鏡を用いた電子エネルギー損失分光法を用いて鉄の価数状態を決定する。また、半導体ダイヤモンドヒーターを用いた手法を改良し、下部マントルの相関係や物性を決定する新手法の開発にも挑戦する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 7件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件) 備考 (1件)
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