研究課題
北海道大学低温科学研究所で稼働している実験装置を用いて,低温表面で生成したH2O分子の原子核スピン温度を測定する実験を行った.本年度は具体的には以下の実験を行った.(1) 10 Kの基板にO2分子とH原子のガスを同時蒸着することで,表面反応(a)-(e)によりH2O氷を生成させた.H原子はH2ガスをマイクロ波放電により分解することで生成させた.O2+H→HO2 (a),HO2+H→H2O2 (b),H2O2+H→H2O+OH (c),OH+H→H2O (d),OH+H2→H2O+H (e)(2)作製後150 Kまで昇温し,熱脱離したH2O分子の原子核スピン温度を共鳴太格子イオン化法により測定した.(3)熱脱離実験とは別に,低温の氷に真空紫外光レーザー(157 nm),可視光レーザー(532 nm)を照射することでH2O分子を光脱離させ,その原子核スピン温度を共鳴太格子イオン化法により測定した.結果として,すべての実験において,H2O分子の原子核スピン温度は高温状態(50 K以上.オルソ/パラ比は核スピン統計重率比である3),を示し,氷生成時の温度(10 K,オルソ/パラ比にして0.3)と異なることが明らかになった.これらの結果から,宇宙のH2O分子の原子核スピン温度は,氷が生成したときの温度環境を反映していないことがわかった.この結果は,宇宙や太陽系における水の起源の定説を覆し,今までの天体観測の結果を解釈し直す必要があることを意味している.
2: おおむね順調に進展している
研究計画時に予定していた実験は,順調に完遂することができたため,研究は順調に進展していると判断した.
今後は,「パラH2Oから作製した氷の核スピン温度測定実験」をおこなう.5 Kの基板にH2O:ネオン混合ガス(1:1000)を蒸着し,固体ネオンマトリックス内にH2Oを閉じ込めると,ネオンの磁気双極子モーメントによりオルソ-パラ転換がおき,およそ7時間でパラH2Oのみに変化する .その後固体ネオンマトリックスを11 Kに加熱すると,ネオンが熱脱離しパラH2Oが凝集してできた氷が基板に残る.この氷に対して原子核スピン温度を測定する.H2Oの水素原子核も磁気双極子モーメントをもつため,氷内ではH2O間の磁気相互作用によりオルソ-パラ転換がおこりうる.氷の温度とオルソH2O,パラH2Oのシグナル強度から,氷内のオルソパラ転換の速度を調べ,原子核スピン温度は生成温度計になるかどうかを議論する.
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (12件) (うち国際共著 3件、 査読あり 12件、 謝辞記載あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件、 招待講演 6件) 図書 (1件)
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