研究実績の概要 |
本年度からは,低温な氷の核スピン動力学に迫るために「パラH2Oから作製した氷の核スピン温度測定実験」に挑戦することとした.6 Kの基板にH2O:ネオン混合ガス(1:1000)を蒸着することで,固体ネオンマトリックス内にH2Oを閉じ込めた.その後,固体ネオンマトリックスを6 Kのまま放置しておくと,固体ネオンマトリックス内でH2Oのオルソ-パラ転換がおき,およそ7時間でパラH2Oのみに変化することがわかった.その後.固体ネオンマトリックスを11 Kに加熱すると,ネオンのみが熱脱離し,パラH2Oが凝集して氷が生成することがわかった.以下,この手法を「ネオンマトリックス昇華法」と記す. このネオンマトリックス昇華法によってパラH2Oから氷を生成し,原子核スピン温度を測定する予定であったが,ネオンマトリックス昇華法によって生成した氷の赤外反射吸収スペクトルを測定したところ,11 Kという低温で作ったにも関わらず,結晶(Ice I)が存在していることがわかった.通常の蒸着法(vapor-deposition)で作製したH2O氷の結晶化温度は,実験室の時間スケールでおよそ130 K以上であるため,本結果は驚くべきものである.そこで本年度では,ネオンマトリックス昇華法による氷生成メカニズムについてまず研究を進め,論文を執筆することとした(詳細は原著論文を参照.Hama et al., Physical Chemistry Chemical Physics, 2017, 19, 17677-17684.).さらに,このパラH2Oから作製した氷について,原子核スピン温度を測定する実験もほぼ終了しており,成果がまとまり次第,論文として発表する予定である.
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