研究課題/領域番号 |
16H06025
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
高野 恵介 大阪大学, レーザーエネルギー学研究センター, 助教 (70583102)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | テラヘルツ波光源 / メタマテリアル / プラズモニクス |
研究実績の概要 |
金属ナノ構造に超短パルスレーザーを照射すると、広帯域テラヘルツ波パルスが発生する。発生するテラヘルツ波強度は、レーザー強度の2から6乗に比例することが報告されている。レーザー光強度によって乗数が変わり、その原因がテラヘルツ波パルスの発生機構の観点から議論がなされている。従来報告によると、レーザー光による金属ナノ構造からの電子放出と、ナノ構造近傍のレーザー光電場による電子加速による電流が、テラヘルツ波パルスの発生源と考えられている。金属ナノ構造からの電子放出は、多光子イオン化や電界放出などの非線形過程によって生じるために、発生テラヘルツ波は励起レーザー光に対し高い非線形性が観測されると考えられている。本研究では、光パラメトリック増幅器を用いて、金属ナノ構造に照射する励起レーザーの波長を変えて、発生するテラヘルツ波の強度を測定した。その結果、発生するテラヘルツ波強度のレーザー強度に対する非線形性が波長によらないことを見出した。 そのほか広帯域なレーザー波長に対して効率的なテラヘルツ波発生が期待されるナノポーラス金や、印刷加工によるパターニングが可能な金属ナノ粒子分散液の焼結体表面に生じるナノ構造などへの超短パルス照射によるテラヘルツ波発生を見いだした。 ナノ構造へのレーザー照射に加えて、ナノ構造と波長数百umのテラヘルツ波という大きくスケールの違う2つの相互作用によって生じる新たな現象の探索を行った。テラヘルツ波とナノ構造を効率よく相互作用させるために、自己補対構造が有効に利用できることを示した。さらにテラヘルツ波パルスの電場振幅が数百V/cmを超えるような場合には、テラヘルツ波によって金属ナノ構造が僅かに変化するという新たな現象も見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は金属ナノ構造からのテラヘルツ波発生の機構を調べるため、光パラメトリック増幅器を用いて波長を変えた超短パルスレーザーを光源としてテラヘルツ波発生実験を行なった。その結果、波長に依存しない発生テラヘルツ波強度のレーザー強度依存性が得られた。金ナノロッドや、ナノポーラス金、金属ナノ粒子焼結体など、様々なナノ構造を持つ金属材料からもテラヘルツ波の発生を観測し、同様の強度依存性を得ている。今後この機構について考察する。 一方で、ナノ構造によるテラヘルツ波の検出に向けて、テラヘルツ波を効率よくナノ構造に吸収させられる自己補対型金属パターンの設計と作製を行なった。さらに、ナノ構造に数kV/cmの電場振幅ピークを持つテラヘルツ波パルスが入射した際には、ナノ構造の構造変化が生じることを見出した。テラヘルツ波による新たな物質構造制御の可能性があるのではないかと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
金属ナノ構造からのテラヘルツ波発生機構の理解のため、励起レーザー光の試料からの反射率を測定しながらテラヘルツ波を測定する。テラヘルツ波発生効率の励起レーザー強度依存性には、レーザー照射による構造の破壊が関与している可能性があり、反射率測定と表面構造の観察を行う。 テラヘルツ波を発生可能な金属ナノ構造を種々入手し、またパルス幅8 fsの超短パルスレーザーをH28年度に導入したので、これらを用いて超広帯域なテラヘルツ波発生を試みる。現在までの金属ナノ構造試料は基板面において反転対称な構造であるので、テラヘルツ波の発生には、レーザー光を斜め入射する必要がある。基板面内で非対称な三角形ナノ構造などを作製し、より簡便な光学系での実験を行う。 金属ナノ構造を用いたテラヘルツ波検出の実証に向けては、高強度テラヘルツ波を試料に照射しながら、試料のレーザー反射率を測定する。この光学系は上述と同じものが利用できる。効率的な検出のためには、レーザー光とテラヘルツ波の両方に共振を生じる金属構造が望ましいので、電磁場シミュレーションを用いた設計と、電子ビームリソグラフィを用いた試料作製を行なっていく。
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