次世代の触媒として担持金属クラスター触媒が期待されている.1原子の違いで分子との反応性がかわる金属クラスターを触媒応用するには構造因子(サイズ,組成,担体,反応空間)の精密制御技術の確立と触媒作用への効果の解明が必要不可欠である.研究代表者はこれまでに配位子保護金属クラスターを用いたサイズ・組成の精密制御に成功し,構造因子の制御が可能になりつつある.本研究では,配位子保護金属クラスターを鋳型とした金属クラスター内包金属酸化物を創製することで,構造因子を独立に精密制御可能な担持金属クラスター触媒合成法の開発を行った.本年度はチオラート保護金クラスターの保護配位子の末端にOH基を導入した金クラスターを前駆体とし,その周囲を種々の金属酸化物で覆った金属酸化物保護金属クラスター触媒を合成した.金属酸化物としてはシリカ,チタニア,アルミナ,ジルコニアを用いた.いずれの場合も金属酸化物前駆体とチオラート保護金クラスターの比率および,ゾルゲル法による金属酸化物の析出の際の条件を制御することで金クラスターの周囲が金属酸化物で覆われた構造体の合成に成功した.この構造体を所定の温度で焼成することで,保護配位子を除去した,金クラスター内包金属酸化物触媒を合成した.合成した金クラスター内包金属酸化物触媒の構造や電子状態を拡散反射紫外可視吸収分光法およびX線吸収分光法により調べたところ,内包した金クラスターの凝集はほとんど起きていないこと,保護配位子もほぼ全て除去できていることを明らかにした.さらに,保護した金属酸化物により内包した金クラスターの電子状態が異なることがX線吸収分光法からわかった.合成した触媒を用いてニトロフェノールの水素化反応を行ったところ,金クラスターによって反応が促進すること,金属酸化物によって反応速度が異なることを見出した.
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