研究課題
金属微粒子のプラズモン共鳴励起を利用した新規光化学反応がプラズモニック化学反応として注目を集めている。しかし、プラズモニック化学反応における固体表面の化学状態と表面反応を反応進行中に直接観測した例はほとんど無い。本研究課題は、高輝度放射光を用いた時間分解雰囲気X線光電子分光法を新たに開発し、プラズモニック化学反応を実時間かつオペランド(反応中)観察し、その反応メカニズムを解明することを目的とする。平成29年度は、代表的なプラズモンナノ材料である金ナノ微粒子・TiO2(Au/TiO2)界面におけるプラズモン共鳴励起により生成した光励起キャリアのダイナミクスを、超高真空下時間分解軟X線光電子分光法を用いてリアルタイム観測した。実験で測定したAu/TiO2試料はTiO2(110)清浄表面にAuを真空蒸着、またはAuナノ微粒子を含んだ溶液を滴下することで作成した。Au/TiO2試料にプラズモン共鳴波長(532 nm)のレーザーを入射し、Auナノ微粒子を選択的に励起した。その結果生成する光励起キャリアがAuナノ微粒子からTiO2基板へ電荷移動し緩和する過程を、Ti2p内殻光電子スペクトルのエネルギーシフトを用いてリアルタイム観測した。Au/TiO2試料をプラズモン共鳴励起した結果、TiO2基板のTi2pピークが高結合エネルギー側へ約10 meVシフトする様子が観測された。このピークシフトは、TiO2清浄表面では観測されず、Au/TiO2表面でのみ観測された。更に、Auナノ微粒子からTiO2基板へ電荷移動した光励起キャリアの寿命は約500ピコ秒と非常に短いことが分かった。また、本年度は自動波長可変オプティカルパラメトリックアンプを1 kHzの低繰り返し・高パルスエネルギーTi:Sレーザーに整備し、次年度以降プラズモン共鳴波長でより強励起が可能になる。
2: おおむね順調に進展している
Au/TiO2試料をプラズモン共鳴励起した際のキャリアダイナミクスを観測することに成功したため。
研究最終年度となる平成30年度は、平成29年度までに達成した超高真空下でのプラズモンナノ材料におけるキャリアダイナミクスをガス雰囲気に発展させ、プラズモニック化学反応を実時間かつオペランド観察することを目指す。その実現に必要な時間分解雰囲気X線光電子分光法の開発を急ぐ。また、プラズモニック化学反応として調べる予定であるAu/TiO2試料による水素解離反応の反応条件(レーザーパワー、試料温度)を、質量分析計で触媒反応の生成物を検出することで最適化する予定である。
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http://www.issp.u-tokyo.ac.jp/labs/sor/s-yamamoto/