研究課題/領域番号 |
16H06035
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伊藤 喜光 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 講師 (00531071)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 超分子化学 / 機能性単分子膜 |
研究実績の概要 |
本申請研究では、自身が見いだした「ナノスケールで近接する疎水界面近傍で静電相互作用は増強される」現象を利用し、これまで実現が困難であった新たな機能性表面を開発することを目的とする。具体的には、「ハイドロゲルの接着・摩擦制御」、「pH可変固体酸触媒」、「高い物質選択性を有するナノチャネル」の開発に挑戦する。これらは物質界面での分子間相互作用を制御することにより実現可能であると考えられるが、界面における相互作用の理解が進んでいないが故に開発が困難であった。申請者は表面化学・超分子化学・有機合成化学を駆使してこの難題に挑む。 初年度である平成28年度は自身が開発した電位によって表面近傍のpHを変化する手法を用いて『任意のpHに制御可能な固体酸触媒』の開発を目指した。申請者はすでに、電位によって電極近傍のプロトン勾配が変化し、表面近傍のpHを変化させていることを明らかとした。この原理を用い、表面を固体酸ととらえ、その反応性を電位によって制御するのが本テーマの目的である。コンセプト実証のため、側鎖にグアニジニウムイオンを多数有するポリマーを用いる事とした。このポリマーは側鎖に有するグアニジニウム基の多価相互作用によりアニオン性の表面に結合することが可能である。表面に結合した状態で基板に電位をかけると適切なpHに到達した時点でモノマー同士を結合している官能基(エステル、アセタール等)が加水分解を受ける。まずこのような反応を可能にするポリマーデザインを行いその合成に成功した。カルボキシル基を多数有する自己組織化単分子膜を、このポリマー溶液に入れたところ、表面にポリマーが吸着していく様子が観測された。ただ、ポリマーの加水分解耐性が低いため、電位の変化に伴うpH勾配に応答した反応性を検討するにはさらなるポリマーのデザインが必要であることが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究を推進していく最中、ポリマーを吸着するための自己組織化単分子膜が、水溶液に浸した後に平衡に達するまでに予想外に長い時間を有する(約8時間)事を見いだした。これは単分子膜が水和するのにかかる時間がそのタイムスケールである事を示している。単分子膜のwettingに関して、数ミリ秒から数分で完了するとするこれまでの知見と大きな隔たりがある結果である。これはおそらく疎水表面上の水分子の特異な性質に由来すると考えられ、今まで知られてこなかった表面化学における新しい知見である。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は新たなポリマーのデザインを行い、電位によるpH勾配に応答した加水分解反応の検討を行っていく。さらに、本実験を推進していく最中見いだされた自己組織化単分子膜の予想外に遅い水和プロセスに関してさらに検討をすすめ、これまで注目されてこなかったナノスケールでの疎水表面における水和プロセスの解明も行っていきたいと考えている。
|