本研究では、刺激応答性のらせん構造体形成を当初の目的としていた。そのなかで、らせん構造体のユニットとして働く2次元結晶構造の合成、解析途中で予期せぬ新規結晶化現象を見出した。すなわち、「Screw Dislocationが提供するトポロジカル欠陥」が「結晶の核形成と成長」を促すことを直接示す現象を発見した。「結晶形成」は、無機、有機、無機-有機複合、生体材料を問わず、様々な研究分野において普遍的に重要な現象である。しかし、特に多成分の結晶化は意のままにはならない。それは、結晶化のプロセスに多くの速度論的トラップが立ちはだかり、熱力学的に安定な一つの結晶への集約を阻害するからである。本研究課題ではこの現象の理解と深化を行い「結晶学における新学理」構築への足がかりを得た。 具体的な発見は次の通りである。ポルフィリンとアゾピリジンのDMF/EtOH溶液に亜鉛イオンを加えて加熱し、金属ー有機構造体(MOF)の3D結晶を得た。構造解析から「ポルフィリンの亜鉛錯体と亜鉛イオンからなる2Dシートをアゾピリジンが柱として支えた多孔性構造」が判明した。ところが、顕微鏡を用いた結晶化の経時観察から驚くべき事実が見えてきた。すなわち、当初想定した3D結晶は、熱力学生成物として最終的に得られるが、それに先立ち速度論的生成物として2D結晶が得られる。さらに、常に2D結晶の中央部から3D結晶成長が始まり、2D結晶を消費しながら3D結晶への変換が行われていくことを見出した。2Dから3Dへの変換過程では、コア-シェル型ハイブリッド結晶が得られる。現在、結晶化過程の詳細、すなわち「なぜ常に2D結晶中央部から3D結晶が発生し、成長を遂げるのか?」について原子間力顕微鏡などを用いて検討を進めている。
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