研究課題/領域番号 |
16H06039
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岩崎 孝紀 大阪大学, 工学研究科, 助教 (50550125)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 遷移金属触媒 / クロスカップリング反応 / 多成分反応 / C-F結合 / アルキル化反応 / パーフルオロアレーン |
研究実績の概要 |
アニオン性錯体触媒の創成並びに高難度の物質変換手法の開発を目指して研究に取り組んだ結果以下に示す炭素―酸素および炭素―フッ素結合の切断を伴った分子変換反応を見出した。また、これまでの研究の過程で不活性な炭素―フッ素結合の切断過程の鍵活性種として想定していたアニオン性ニッケル錯体の単離構造決定に成功した。 ニッケル触媒によるブタジエンの二量化を伴う分子変換反応の開発: ニッケル触媒存在下、ブタジエン、フッ化アルキル、アリールグリニャール試薬とを反応させることにより、ブタジエンの二量化により生じる1,6-オクタジエンにフッ化アルキル由来のアルキル基およびアリールグリニャール試薬由来のアリール基がそれぞれ3-および8-位に導入された多成分反応生成物が選択的に得られることを明らかとした。本反応は、室温程度の温和な条件下炭素―フッ素結合を切断する特徴を有している。さらに、ポリフルオロアレーンへと本手法を適用することにより、類似の多成分反応が進行することを見出した。これらの反応の鍵活性種はニッケル、2分子のブタジエンとアリールグリニャール試薬より生じるアニオン性錯体であると考えられる。そこで、種々検討を行い、アニオン性ニッケル錯体の単離構造決定に成功し、触媒活性種の分子構造を明らかにするとともに、その化学的挙動を解明した。 鉄触媒による炭素―酸素結合の切断を伴うクロスカップリング反応: これまでにアニオン性ロジウム錯体がビニルエーテル類とアリールグリニャール試薬とのクロスカップリング反応の鍵活性種として機能することを見出している。そこで、同様の反応において様々な遷移金属の触媒活性を検討した結果、鉄触媒が触媒活性を示すことを明らかにした。興味深いことに、鉄触媒系はロジウム触媒では利用が困難であった立体的に嵩高い基質を利用することも可能であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
安価な炭素資源であるブタジエンを反応基質とする多成分反応による官能基化手法の開発を達成した。これまでにもニッケルやパラジウムを用いたブタジエンの二量化反応を伴う官能基化反応は多数開発されており、オクテンなどの基幹化学原料の工業的合成に利用されている。これらの反応では中性の活性種に対する求核剤による官能基化を利用しているのに対して、本研究では中間体をアニオン性錯体とすることにより、従来困難であった求電子剤の導入を実現した。本成果は、従来手法とは異なる反応機序に基づくブタジエンの分子変換反応の可能性を提示するものである。また、これまで合成化学的な利用が進んでいなかったポリフルオロアレーン類を上記の触媒系と組み合わせることにより、初のポリフルオロアレーンの多成分反応を開発した。 さらに、これまで推定中間体として提唱されていたアニオン性ニッケル錯体の単離構造決定に成功し、実験的にその分子構造および化学的挙動を明らかにした。アニオン性錯体の錯体化学的な取扱についてはこれまでの研究例が稀であるために、不明確な部分が多く、本研究課題の懸案であったが、初年度にアニオン性錯体の錯体化学的研究において成果を挙げたことは、本研究推進の上で重要な知見になると期待される。 また、最も安価な遷移金属元素である鉄についてもアニオン性錯体の可能性を明らかにした。すなわち、これまでの研究成果も踏まえ周期表上の様々な遷移金属に対してアニオン性錯体の可能性を提示するにとどまらず、炭素―酸素結合のような切断が困難な官能基を切断するパワフルな触媒となり得ることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
初年度にはアニオン性錯体の単離手法の確立、ポリフルオロアレーンの求電子剤としての可能性の発見、アレンなどの不飽和炭化水素が求核剤として利用できることを明らかにするなど本研究推進上重要な成果が得られた。平成29年度は前年度の成果をもとにさらなる発展が期待できる反応系に研究資源を集中する。具体的にはポリフルオロアレーンを求電子剤とする不飽和炭化水素類との多成分反応に関して種々の遷移金属触媒を検討する。また、アレンのアルキル化反応についても検討を行う。 あわせてより難易度の高い単純なアルケンを求核剤とする分子変換反応やより反応性の低い求電子剤の活性化手法についても検討を行うことによりさらなる展開を模索する。 アニオン性錯体の単離構造決定手法を確立したことより、錯体化学的手法を用いてアニオン性錯体の構造および化学的挙動の解明に向けた反応機構研究も併せて推進する。
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