研究課題
アニオン性錯体触媒の創成並びに高難度の物質変換手法の開発を目指して研究に取り組んだ結果以下に示す鉄触媒によるアルキル―アルキルカップリング反応、コバルト触媒による炭素ーフッ素結合の切断を伴ったアルキル―アルキルカップリング反応を開発した。また、これまでの研究の過程で不活性な炭素ーフッ素結合の切断過程の鍵活性種として想定していたアニオン性ニッケル錯体の単離構造決定に成功し、速度論および計算科学的手法を活用し、反応機構の詳細を明らかにした。鉄触媒によるアルキル―アルキルカップリング反応: これまでにも安価かつ資源量の多い鉄触媒によるクロスカップリング反応の開発が精力的に行われていたが、アルキル基同士を連結する反応は数例が知られるのみであり、その触媒効率も改善の余地が残されていた。今回、シクロペンタジエニル配位子とブタジエン添加剤を組み合わせることにより、鉄触媒によるクロスカップリング反応を達成した。反応機構研究の結果、アニオン性錯体がハロゲン化アルキルとの反応の鍵活性種であることを明らかにした。コバルト触媒による炭素ーフッ素結合の切断を伴ったアルキル―アルキルカップリング反応: コバルト触媒によるフッ化アルキルの炭素ーフッ素結合の切断を伴ったクロスカップリング反応を開発した。本反応では、従来の触媒反応に対して不活性な炭素ーフッ素結合が効率よく切断される特徴を有し、未利用であったフッ化アルキルのアルキル化剤としての可能性を提示することに成功した。また、従来触媒では反応しないフッ化アルキルを反応点とすることにより、従来手法と組合せた炭素骨格構築が可能である。ニッケル触媒による多成分反応の反応機構: 反応機構研究および量子化学計算により詳細な反応機構を明らかにした。得られた成果はこれまでの想定反応機構を支持するものであり、アニオン性錯体の特異な反応性を裏付けるものである。
1: 当初の計画以上に進展している
最も安価な遷移金属元素である鉄についてもアニオン性錯体の可能性を明らかにし、アニオン性錯体とすることにより、中性の鉄錯体触媒では困難であった反応様式を達成した。このことは、遷移金属触媒反応の鍵活性種としてアニオン性錯体が、従来の中性錯体を凌駕する高機能触媒として機能することを示すものである。また、従来、結合の切断が困難であると考えられていたフッ化アルキルの炭素ーフッ素結合の切断反応がアニオン性錯体により円滑に進行することを明らかにするとともに、クロスカップリング型および多成分連結型反応の反応基質と成り得ることを明らかにした。これらの成果をもとに、従来手法では困難であった炭素骨格構築手法を多数開発し、その反応機構研究についても十分な成果が得られた。反応機構研究では、アニオン性錯体とフッ化アルキルとの反応過程を明らかにすることにより、アニオン性錯体を鍵活性種とする触媒反応設計に有用な知見が多数得られた。これらの成果は当初の想定を上回るものである。
これまでにアニオン性錯体の単離手法の確立、フッ化アルキル、ポリフルオロアレーンを求電子剤として利用するクロスカップリング反応および多成分反応を多数開発した。また、安価な鉄やコバルト、ニッケル、銅のアニオン性錯体が優れた触媒活性を示し、これまで困難であった反応様式を実現できることを明らかにした。最終年度には、これらの知見を踏まえ、反応基質の組合せについてさらに検討を進め、多様な分子変換反応の開発を行う。また、反応機構研究および他の遷移金属元素のアニオン性錯体合成と構造決定についてもあわせて行い、アニオン性錯体の化学的挙動および、遷移金属元素の違いによる化学的挙動の違いを明らかにすることにより、これまでに得られたアニオン性錯体に関する知見を体系化し、アニオン性錯体の合理的な設計指針を確立する。
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