本申請研究「界面光制御に基づくハイブリッド材料群を用いた革新的脳機能活性化法の創成」は、ナノレベルの光機能性界面を構築し、神経膜表面の電子的・熱的エネルギー状態を光制御することで、脳の重要な機能の一つである「膜電位」の光活性化を可能にする、画期的光治療法の開発を提案する。本研究の推進により、従来の光遺伝学的手法や、小分子・有機材料・無機材料単体あるいは混合物による活性化では実現不可能であった、遺伝子治療を必要としない600 nmより長波長の光照射により、共同的に機能する界面を用いた「膜電位光変換法」を日本発の独自新技術として創出し、次世代光治療に向けた光機能性ハイブリッド材料における脳活性化という革新的基盤技術へ繋げる。 実験に先立ちこの方法の有効性について検討した。神経軸索を半径10 micro meter、長さ10 cmのシリンダー状構造の脂質薄膜円筒と仮定すると、その静電容量 Cは、約1.7 x 10-8 Fと見積もられる。神経細胞膜の生物学的機能を誘起するには、静止膜電位からおおよそ15-20 mV程度の膜電位変換をトリガーとして与え、活動電位の閾値を超える必要がある。この電位差を、上記の軸索シリンダー膜で生成するには、電荷総量ΔQ = C×ΔVより、約nC程度の電荷を膜表面で生成させることが必要となる。パルスラジオリシス法などの経験から、分子間電子移動反応で生じる電荷の総量は、nC程度であり、膜電位のトリガーとして必要な電荷総量を十分に超えている。以上から、分子間電荷分離系が、内在性の神経活動を活性化し、膜電位を変換すると示唆された。 本年度は、用いる分子の合成と、測定を行う顕微システムの構築を行った。また熱効果反応によるカルシウムシグナル変換系の構築も行い、目的達成への手がかりを得た。
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