研究課題/領域番号 |
16H06048
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
前田 壮志 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90507956)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 近赤外 / 励起子相互作用 / Davydov分裂 / 機能性色素 / 潜在顔料 / 有機太陽電池 / 有機半導体 / スクアレン |
研究実績の概要 |
本研究は励起子カップリングの精密操作を基盤とした近赤外吸収色素の新機軸設計法を開発し,近赤外光電変換に資する機能性色素群を創製することを目的としている.平成28年度では,クロモフォアとしてスクアレン色素(SQ)を選択し,2つのクロモフォアを分子内に持つ色素の合成に成功した.2つのクロモフォアを持つ色素は,クロモフォア間の励起子相互作用により,SQ単独の吸収より長波長側の近赤外領域と短波長側の可視光領域に2つの鋭く強い吸収を示すことを明らかにした.平成29年度では,平成28年度に見出した2発色団型色素の合成法に基づいて,2つのクロモフォアの配向性が異なる色素群を設計・合成し,クロモフォアの配向性が励起子相互作用による吸収帯の分裂に及ぼす効果について検討した. 2つのクロモフォアの配向性が異なる4種類の2発色団型色素は,いずれもクロモフォア間の励起子相互作用により分裂した吸収帯を持っていたが,長波長側と短波長側の吸収強度が大きく異なることが明らかとなった.2つの発色団がほぼ直線状に連結した2発色団型色素の場合,長波長側の吸収帯の吸光度が大きくなり,屈曲した配向を持つ2発色団型色素では低波長側の吸収帯の吸光度が大きくなった.このように,発色団の配向性を制御することで,色素の吸収特性を変化させることに成功した.さらに,二発色団型色素の蛍光挙動についても詳しく調査した.これらの色素は非極性溶媒中(トルエン)ではKashaの原理に従い,分裂した吸収の低エネルギー側の励起状態からの強い蛍光を示すが,極性溶媒中(メタノール)ではほぼ完全に消光した.この著しい消光は対応する単一発色団型色素では見られないことから,二発色団型色素特有の現象であり,励起子カップリングが関わる新奇な蛍光特性を見出した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は,(i)クロモフォアの分子配向と特性の相関,(ii)潜在顔料化,(iii)凝集構造解析,(iv)光電変換デバイスへの展開,の4項目に関して検討する計画である.本年度では(i)の検討を通して,新規近赤外吸収色素群を開発し,それらが励起子カップリングに起因した特異な光学特性を示すことを明らかにしている.さらに,(ii)に挙げる潜在顔料化は平成28年度まで完了しており,本年度中に得られた色素群の(iii)凝集構造解析や(iv)光電変換デバイスへの適用にも着手しており,おおむね順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度では,本年度に見出された励起子カップリングに基づく特異な蛍光挙動について詳細に検討を進める.また,当初の研究計画に沿って,(iii)凝集構造解析及び(iv)光電変換デバイスへの展開について重点的に研究を進める.これまでの研究を通して,有力な色素母骨格の開発に成功している.これら色素群と電子アクセプター性化合物との間での光誘起電子移動において,励起子相互作用に基づく特異な光学特性がどのような効果を及ぼすのかについて,その可能性と制限を明らかにする.さらに,有機薄膜太陽電池や近赤外光検出デバイスの試作を行い,光学特性とデバイス特性の相関を明らかにする計画である.
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